現代によく見られる猫背の姿勢には、心理的ストレスへの防衛反応のようなものが感じられるように思えた。
それは慢性的なストレスの場合もあれば、突発的なトラウマのようなストレスの場合もあるだろう。
防衛反応によって、腹を固めて丸くなってしまい、その姿勢が定着してしまう。
肋骨下部やみぞおち、腸骨稜や恥骨といった、腹筋の起始停止部を少し押してみると、とても多く人が痛みを感じるようだ。
前回の話にもつながっているが、座っている状態では脚を自在に動かせるのに、立った状態では骨盤の周辺が硬直して、表情も暗くなり下を向いてしまうような状態をみると、過去に転んだ恐怖やヘルニアになった痛みなどの経験が、その硬直を産んでいるように見えた。
「恐怖」「不安」ということを調べてみると、ポリヴェーガル理論が同じようなことを論じているのを見つけた。
提唱者のポージェス氏の「ポリヴェーガル理論入門」の日本語訳版を読んでみた。
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どうやら副交感神経として従来まとめられていた迷走神経には2種類あり、脳幹を発して腹側と背側へ別々に伝わっているという。交感神経が「闘争・逃走」の機能を担うのは従来の理論と共通しているが、「どうしようもない」ような恐怖を感じた時には背側の迷走神経が「フリーズしてやり過ごす」という働きをするという。
このフリーズした状態が定着してしまうことが、先ほどの不良姿勢にもつながっているように思える。
ポリヴェーガル理論は、心理療法の業界では流行しているようだが、まだしっかりと検証された理論ではないようだ。
ポージェス氏の語り口は、なんだかマーケターのような「巧い」印象があり少し違和感があるが(日本語訳の仕方なのかもしれないが)、理論には参考になる部分があった。
「恐怖」が無意識に体をかためているのだとしたら、まず「安全」であるということを自分で少しずつ認識しなおしていく必要があるようだ。
また、鼓膜の緊張のコントロールができなくなり、常に危険を察知しようとして低周波の音を聞こうとするため、人の声などの高周波の音を聞き取れなくなるという。これが自閉症や聴覚過敏などにつながっているということである。これについては、ブラーマリープラーナーヤーマ(ハミングビーブレス)が心理的な病気に効果があるということに関係しているように思える。
心理的な問題を、心理的なアプローチで解決するのが難しいために、ハタヨーガは身体的アプローチを用いてきた。
ポリヴェーガル理論入門の最後の章は「心理療法に関するソマティックな視点」というタイトルである。ソマティックは「身体的」などの意味を持つ。
ソマティックという言葉も、ヨガ業界やセラピー業界でたまに聞く言葉であった。というわけで、その言葉を流行らせた「ソマティクス」も読んでみることにした。ソマティクスについては次回改めて。
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