東洋医学で用いられる経絡・経穴と、アーユルヴェーダやヨガで用いられるナディ・マルマ・チャクラに関して、文献の情報や私の感覚などに基づいてまとめるページ(随時更新)。
「気」の概要
人間の体には、血管と血液、リンパ管とリンパ液のように、栄養分や老廃物を運搬する仕組みがある。
これらのように目に見えて手に触れられる機構とは別に、「気」や「プラーナ」と呼ばれる生命エネルギーが存在し、体内外にはそれを運ぶ「経絡」や「ナディ」と呼ばれる経路があると、東洋医学やアーユルヴェーダなどでは定義されている。
人間には脳や心臓や筋肉といったモノが存在していて、肉体を日々運営し続けているが、その生命活動はどのように始まって、どのように続けられているのかという「生命」に関する大きな謎は、肉体をほじくり返しても未だ科学では解明されていない。
東洋医学やアーユルヴェーダでは、その生命活動には「気」や「プラーナ」というものが関わっており、気は人体だけでなく世界の中に流れていて、人体の内外にはその出入り口や通り道が存在しているという考え方を用いるようになった。
気を用いた治療としては鍼灸治療や気功などがあるが、現代では鍼灸師は日本の国家資格であり、経脈や経穴はWHOも定義しており、「気」の存在は一般に認められるところまで来ている。
気の扱いは、鍼灸師だけでなく誰にでもできるものであり、自分の気をうまく扱うということは心身の健康のためにとても重要である。
ヨガのポーズを行う際にも、あるいは日常のどんな動作・思考などにも、「気」を意識することによって、それらの質を高めることができる。
経絡・経穴とは
気の通り道を、東洋医学では「経絡」などと呼ぶ。
「経絡」は経すなわち縦線と、絡すなわち横線を合わせた言葉で、鍼灸治療などに用いられる主要な経絡としては、14の縦線すなわち「経脈」が用いられる。主要な経脈の間を、無数の絡脈がつないでいるという構造である。
経穴は、主要な14の経脈の上にあり、体内を流れる経脈と体外の気の流れをつなぐ出入り口のようなものとして定義されたりする。その定義や呼称にはさまざまなものがあるが、鍼灸治療などでは主にこの経穴へのアプローチを行うことで経脈を流れる気を整える。
「ツボ」として経穴単体でフォーカスされることも多いが、ツボは経脈を意識してこそ効果があるものであり、また経脈も1本だけにフォーカスするのではなく全体のバランスを整える意識が重要である。
ナディ・マルマ・チャクラとは
アーユルヴェーダやヨガでは、気を「プラーナ」、気の通り道を「ナディ」と呼ぶ。
「ナディ」は通り道ではなく「流れそのもの」であると解釈される場合もある。この場合、プラーナが流れていなければナディ自体が存在しないということになる。
ナディには主要なものが10あるいは14と定義され、全部で72,000あると言われている。東洋医学の経絡とは微妙に異なるところもあるが、考え方としては似通っている。
気の出入り口として考えるならば、経穴にあたるものは「チャクラ」であると思われる。チャクラは「渦」「円盤」などの意味で用いられる言葉で、経絡と経穴を用いる気功の行でもよく「渦」のイメージが用いられ、体内外の気のやり取りが行われる。
それに対して、アーユルヴェーダの療法においてよく用いられるのは「マルマ」というものである。これはツボに似ている考え方であるが、チャクラとは異なる概念である。
マルマの定義もさまざまなようであるが、参考書籍「アーユルヴェーダ マルマ療法」で用いられている定義を引用してみる。
体を心や高次の意識とつなぐエネルギーの中心には、3つのレベルがあります。それがチャクラ、ナーディ、マルマなのです。チャクラは精妙な体のエネルギーの中心であり、背骨に沿った位置にあります。3つのうち最も精妙で、単なる物理的な位置ではなく、プラーナの本質、すなわち「エネルギーの中心」なのです(だからこそ、その活動は物質的レベルではほとんど認知できません)。
ナーディは、チャクラから体のさまざまなポイントに走る精妙な導管で、人の生理的システムを活性化します。物理的な神経ではありませんが、認知できるエネルギーの流れです。
マルマはナーディから発達した敏感な領域で、プラーナをチャクラとナーディから体全体の隅々に行き渡らせます。体の上の特定のポイントやゾーンとして、感じることができます。したがってマルマは、チャクラとナーディから生じるエネルギーが物質的レベルに変換されたものと考えることができます。
3種類のエネルギーの中心
1.7つのチャクラ
2.14のナーディ
3.107のマルマ出典:アーユルヴェーダ マルマ療法 p.55
チャクラは気の通り道であり手で触れることはできないが、マルマは物質であり肉体の一部分なので手で触れたりマッサージなどの施術が行える。そういった施術によって、間接的にナーディ・チャクラを整えることへつながるというように読み取れる。
後述するが、マルマは筋肉・脈管・靭帯・骨・関節などに分類されている。また、それぞれに「大きさ」なども定義される。このあたりも東洋医学の経穴とは異なる考え方である。
また、クンダリニーはプラーナとは別のエネルギーであり、チャクラを賦活するためには、脊椎基底部のムーラダーラチャクラに眠っているクンダリニーを呼び覚ます必要があると言われる。
気の種類
気が生成される元
- 清気
- 水穀の精微
- 先天の精
四気
- 宗気
- 営気 えいき
- 衛気 えき
- 元気(原気)
プラーナの種類
- プラーナ
- サマーナ
- アパーナ
- ウダーナ
- ヴィヤーナ
主要な経絡一覧
正経十二経
奇経八脈
経穴の分類
ツボの分類
- 経穴
- 奇穴
- 阿是穴
要穴
- 五要穴:原穴・郄穴・絡穴・墓穴・兪穴
- 五行穴:井穴・滎穴・兪穴・経穴・合穴
主要なナディ一覧
チャクラと対応するナディ
1.アラムブシャ・ナディ:ムーラダーラ・チャクラ
脊柱基底部から直腸の先まで、排泄器官にプラーナを供給
2.クーフー・ナディ:スヴァディシュターナ・チャクラ
脊柱基底部からスヴァディシュターナを通り尿道の先まで、泌尿生殖器官にプラーナを供給
3.ヴィシュヴォダーラ・ナディ:マニプーラ・チャクラ
脊柱基底部からマニプーラを通り腹部の隅々まで、消化器官と消化の火にプラーナを供給
4.ヴァルナ・ナディ:アナーハタ・チャクラ
脊柱基底部からアナーハタを通り全身の隅々に、呼吸系・循環系・皮膚にプラーナを供給
5.サラスヴァーティ・ナディ:ヴィシュッダ・チャクラ
脊柱基底部からヴィシュッダを通り、舌の先まで、喉・口・舌・発声器官にプラーナを供給
6.スシュムナー・ナディ:アージュニャー・チャクラ
脊柱基底部から頭頂まで、眉間のあたりでたくさんのナディに分岐、脊柱・脳・神経器官にプラーナを供給し骨組織を支える
眉間につながるナディ
1.ピンガラ・ナディ:眉間から右の鼻孔へ
2.イダー・ナディ:眉間から左の鼻孔へ
3.プーサ・ナディ:眉間から右目へ(覚醒している間、魂は右目に宿っているので、非常に重要な感覚のためのナディ)
4.ガンダーリ・ナディ:眉間から左目へ
5.シャンキニ・ナディ:眉間から左耳へ
6.パヤスヴィニ・ナディ:眉間から右耳へ
マルマの分類
領域別のマルマ
下記の107個+全身を1個として、合計108個のマルマ
腕と手のマルマ
11のマルマ領域、22のマルマ・ポイント
- 手のクシプラ・マルマ
- 手のタラフリダヤ・マルマ
- 手のクルッチャ・マルマ
- 手のクルチャシラ・マルマ
- マニバンダ・マルマ
- 腕のインドラヴァスティ・マルマ
- クルパラ・マルマ
- 腕のアーニ・マルマ
- バーヴィ(腕のウルヴィ)・マルマ
- 腕のローヒタークシャ・マルマ
- カクシャダラー・マルマ
脚と足のマルマ
11のマルマ領域、22のマルマ・ポイント
- 足のクシプラ・マルマ
- 足のタラフリダヤ・マルマ
- 足のクルッチャ・マルマ
- 足のクルチャシラ・マルマ
- グルパ・マルマ
- 脚のインドラヴァスティ・マルマ
- ジャーヌ・マルマ
- 脚のアーニ・マルマ
- 脚のウルヴィ・マルマ
- 脚のローヒタークシャ・マルマ
- ヴィタパ・マルマ
腹と胸のマルマ
8のマルマ領域、12のマルマ・ポイント
- グダ・マルマ
- ヴァスティ・マルマ
- ナービ・マルマ
- フリダヤ・マルマ
- スタナムーラ・マルマ
- スタナローヒタ・マルマ
- アパラーパ・マルマ
- アパスタンバ・マルマ
背中と腰のマルマ
7のマルマ領域、14のマルマ・ポイント
- カティカタルナン・マルマ
- ククンダラ・マルマ
- ニタンバ・マルマ
- パルシュヴァサンディ・マルマ
- ブリハティー・マルマ
- アンサパラカ・マルマ
- アンサ・マルマ
頭と首のマルマ
14のマルマ領域、37のマルマ・ポイント
- ニーラ・マルマ
- マニヤ・マルマ
- シラー・マートリカ・マルマ
- パナ・マルマ
- アーパンガ・マルマ
- ヴィドゥラ・マルマ
- クリカティカ・マルマ
- シャンカ・マルマ
- ウトゥクシェーパ・マルマ
- アヴァルタ・マルマ
- シュリンガタカ・マルマ
- スタパニ・マルマ
- シーマンタ・マルマ
- アディパティ・マルマ
マルマ瞑想に用いられる18のマルマ領域
各部分へ意識を集中して整える、マルマ瞑想に用いる。
- つま先
- 足首
- ふくらはぎ中央
- 膝の根元
- 膝の中心
- 腿の中央
- 肛門
- 腰の中央
- 尿道の根
- へそ
- 心臓の中心
- 喉元
- 舌の付け根
- 鼻の付け根
- 目の中心
- 眉間
- 額の中心
- 頭頂
指圧の方法と渦の関係
- 内臓と組織の強化・強壮が目的の場合は、時計回りに少し回る動きを用いる。
- 過剰なドーシャを減らすのが目的の場合は、反時計周りに少し回る動きを用いる。
参考文献
「改訂アーユルヴェーダとマルマ療法 (GAIA BOOKS)」デイヴィッド・フローリー (著), スバーシュ・ラナーデ (著), アヴィナーシュ・レーレ (著)
「ツボ単―経穴取穴法・経穴名由来解説・〔ユ〕穴単語集」坂元 大海 (著), 原島 広至 (著)