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ハタヨーガプラディーピカー概説 1.1-1.11 〜ハタヨーガとは〜

ハタヨーガプラディーピカー概説 1.1-1.11 〜ハタヨーガとは〜

現代ヨガにも通じるヒントが散りばめられている、ハタヨーガの古典

Q「どんなヨガをやってますか?」
A「ハタヨガです」

という方が多いですが、何度か記事でも書いているように、数百年前に生まれたとされるハタヨーガと現代のヨガは多くの点で異なっています。

だからといって現代ヨガが悪いとかいうわけでもありません。ほとんど別物で、それぞれに特徴があります。

ハタヨーガの古典はいくつか残されていますが、最も体系化されているとして重要視されているのがハタヨーガプラディーピカーです。

今回は、ハタヨーガプラディーピカーの冒頭で示されている「ハタヨーガとは」ということに関する部分を紹介します。

以下、日本語訳は「ヨーガ根本経典/佐保田鶴治」から引用しています。

この記事の目次

ハタヨーガプラディーピカーの位置づけ

ハタヨーガプラディーピカーの内容には、過去の古典を引用してまとめなおした部分が多く、他の古典と全く同じ文言もよく出てきます。

しかし同じ名前の技法でも全く異なるやり方で書かれているものもあったり、明らかに間違っていそうな説明もあったり、これを絶対的なハタヨーガの教典として置くには無理がありそうです。

アーサナ名は、現代ヨガでも本当にテキトーにつけられているものが多いです。同じシヴァナンダ氏の弟子であるサッチャナンダ氏とヴィシュヌデヴァナンダ氏のアーサナが全く異なっていたり、クリシュナマチャリア氏と弟子のパタビジョイス氏やアイアンガー氏のアーサナが異なっていたりしますので、現代ヨガにおいても、「他のスタジオで習った◯◯アーサナと違う!」というのは当然あり得ることだと思います。

なので、「ハタヨガ」の意味も時代によって変化していくのかもしれません。

本質がわかっていれば、名に執着する必要はないのです。

ハタヨーガはシヴァ神から授かった教え

1.1(前半) ハタ・ヨーガの道術を太初に示したもうた祖神シヴァに帰命したてまつる。

ハタ・ヨーガの古典のほとんどは、このようなシヴァ神を敬う偈から始まります。

ヒンドゥー教には「三神一体」という考え方があり、ブラフマー・ヴィシュヌ・シヴァの三神が存在します。

その他にもたくさんの神が定義されていますが、それは人がそれぞれ異なるバックグラウンドを持っているため、解脱に至るにはそれぞれに適した神が必要である(宇宙意識ブラフマンが、人それぞれに合った神を生み出してくれる)という考え方であり、結局は同じ真理に至るということです。

信仰する対象によって修行法が異なり、たとえばヴィシュヌ派にとってはバクティヨーガ、シヴァ派にとってはハタヨーガが主な修行法のひとつとして用いられていたようです。

ヨガスタジオによっては、下のようなシヴァ神の像が飾ってあると思います。

私は特定の宗教に属しているわけではありませんし、人それぞれ信じたいものを信じれば良いと思うので、スタジオには特定の神様の像などは置いていません。

ハタヨーガはラージャヨーガのための階梯である

1.1(後半) ハタ・ヨーガは、高遠なラージャ・ヨーガに登らんとするものにとって、すばらしい階段に相当する。

現代におけるラージャヨーガとは、ヨーガスートラが示す、主に心を扱うヨーガの道であると定義されています。

≫ヨーガスートラとは 〜現代ヨガの重要教典・心の扱い方・瞑想の教科書〜

ただしヨーガスートラ自体は、これはラージャヨーガの教典ですと示しているわけではなく、「ラージャヨーガ」の名称は、体を主に扱うハタヨーガと区別するためにハタヨーガプラディーピカーが初めて用いたとされています。

ハタヨーガは、ヨーガスートラが示したアシュターンガヨーガ(8支則)の中の後ろ6つ、アーサナ・プラーナーヤーマ・プラティヤーハーラ・ダーラナー・ディヤーナ・サマーディを、ヨーガのゴールへ至るための階梯として示すことが多いようです。

ハタヨーガプラディーピカーの中では第4章でラージャヨーガについて述べられていますが、ここで述べられるゴールであるサマーディは、ヨーガスートラで示されているものとはだいぶ異なる描かれ方をしています。

ただ、本質的に異なるわけではなく、同じような境地を別の描き方をしただけなのかもしれません。シヴァナンダ氏やサッチャナンダ氏も、様々なヨーガにおけるサマーディについて比較解説していますが、結局至るのは同じ境地なのであり、自分にあった道を選ぶべしと語っています。

後々、第4章についても概説を書きたいと思います。

ハタヨーガは秘密にされるべき技法である

1.11 およそ霊力を得ようと思う行者は、ハタの道術を極秘にしなければならない。なぜかといえば、ハタの道術は秘密に護持するときにこそ力があり、公開すると無力なものになってしまうからである。

この一節の捉え方は様々なようです。

秘密にされる理由の捉え方の例としては、下記のようなものがあります。

  • ハタヨーガは密教(タントラ)的な教えであるから。
  • 秘密を守ることで力が護られる技であるから。
  • 出し惜しみをしているから。
  • 知らないほうがいいことであるから。

ハタヨーガは密教(タントラ)的な教えであるから秘密にされる。

世の中の「教え」には全て「顕教(スートラ)」的な面と、「密教(タントラ)」的な面があると言われます。

文字などで表されて多くの人々に伝えられるスートラと、師匠から個人的に教わるタントラ。

それらは織物の縦糸と横糸にたとえられるように、両方が伴っていなければ成り立たないといいます。

現代ヨガにおいても、本でアーサナの説明をみたり、大人数スタジオで見本を見せられただけでは、ほとんどの人は正しくアーサナをできないでしょう。

個人的にしっかり教わることで、その進歩はとても速くなります。私もその重要性を感じるので、プライベートレッスンをメインにしています。

ハタヨーガプラディーピカー自体がそう述べていますし、このあとに続いていくアーサナの説明はとーってもざっくりしたもので、とても文字を読んだだけでは実践できるものではありません。

≫ハタヨーガプラディーピカー概説 〜18アーサナ簡単解説〜

秘密を守ることで力が護られる技であるから秘密にされる。

「鶴の恩返し」「浦島太郎」などの話でも出てくるように、約束が破られると失われてしまう力というものがあります。

ハタヨーガで得られる力も、その類の技であり、みだりに人に見せたりしてはならないと捉えることもできます。

本当に力を得た人が実は現代にも存在しているのだとしたら、簡単には見つけられないのでしょう。ヒマラヤの山奥などにいるんでしょうかね。

「私は超能力が使えます!」などと言ってグイグイ露出してくる人は、ニセモノの可能性が高いですね。

出し惜しみをしているから秘密にされる。

苦労して積み上げてきた技なので、単に企業秘密的な感じで出し惜しみをしているのかもしれません。

教わりたかったら、師匠から直接教わるべし、ということなのだとしたら、ハタヨーガプラディーピカーは概要と効果だけを示したパンフレット的な扱い?ということも考えられなくはないですね。

知らないほうがいいことであるから秘密にされる。

ヨーガを行うことで様々な効果が得られますが、結果に執着してはならないと言われます。ヨーガスートラでも様々な超能力について述べられていますが、それら全てに対してすら無執着であることが必要であるとされます。

≫ヨーガスートラ解説 3.51-3.56 〜識別知を得て、独存に至る〜

そのため、「効果など知らないほうが、黙々と修行を進めるには良いのである」という意味と捉えることもできます。

たとえば「やせたい」といった理由でヨガを始めた人が、真面目に続けていったことで、体の重大な癖に気づいたり、長年抱えていた病気が治るきっかけになったりといった思わぬ効果が得られた、ということもよくあります。

このようにハタヨーガの古典の中には、現代ヨガを行う上でも活用できるヒントが散りばめられています。引き続き、概説を書いていきたいと思います。

≫ハタヨーガプラディーピカー概説 1.12〜1.16 〜ハタヨーガを行うための諸条件〜

参考文献

「ヨーガ根本教典」佐保田 鶴治 (著)

「サンスクリット原典 翻訳・講読 ハタヨーガ・プラディーピカー」菅原誠 (著)

「Asana Pranayama Mudra Bandha 英語版」Swami Satyananda Saraswati (著)

男性ヨガインストラクター 高橋陽介の写真

by 高橋陽介

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