「KUNDALINI TANTRA(クンダリニー・タントラ)/Swami Satyananda Saraswati(スワミ・サティヤナンダ・サラスワティ)著」を読み進めていく形で、クンダリーニヨガ(クンダリニーヨーガ)の概要を紹介していきます。
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今回は、第1章の4節の前半、クンダリニーと脳に関する部分です。
(引用部分の太字強調は私が個人的に重要と思ったところを示したものです。)
クンダリーニヨガの研究については、以下のページにまとめてあります。
用語:クンダリニー(クンダリーニ)・チャクラ・ナディ(ナーディー)
脳の90%は眠っている
The brain has ten compartments, and of these, nine are dormant and one is active. Whatever you know, whatever you think or do is coming from one-tenth of the brain. The other nine-tenths, which are in the frontal portion of the brain, are known as the inactive or sleeping brain.
一般的にも知られていることですが、通常の人は脳の1/10しか使っていないと言われています。
ただ、1/10というのが本当に本質を捉えているのかは、注意深く観察する必要があるかもしれません。
Why are these compartments inactive? Because there is no energy.
なぜ他の90%は眠っているのか?それは「エネルギーがないから」であると説明されます。
活性化している1/10の部分はイダーとピンガラーの両方からエネルギーを得ていますが、活動していない9/10の部分はピンガラーからしかエネルギーを得られていないといいます。
ピンガラーは生、イダーは意識のエネルギーを表し、細胞として生きることはできているけれど、その機能は働くことができていない状態の部分が90%あるということです。
エネルギーの種類としては、生きるためのプラーナ・シャクティはあるけれど、意識が働くためのマナス・シャクティは無い状態、というように表現しています。「マナス」は様々な訳され方をしますが、「心」「理性」「意志」などの意味を持つ言葉です。
In order to arouse the silent areas, we must charge the frontal brain with sufficient prana and we must awaken sushumna nadi. For both these purposes we must practise pranayama regularly and consistently over a long period of time.
それでは、眠っている脳の領域を目覚めさせるにはどうしたら良いか?
それには、脳の前部に十分なプラーナを供給することと、スシュムナー・ナディを覚醒させることが必要であると説明されます。その両方の目的のために、プラーナーヤーマの実践を、規則正しく長期間行う必要があるといわれます。
チャクラは脳の各部分とつながっている
In kumdalini yoga it was discovered that the different parts of the brain are connected with the chakras.
各チャクラは、脳の中の特定部分とつながっているといわれます。
眠っている脳の部分を覚醒させるためには、電球を灯すように、電球そのもの・脳そのものをいじるのではなく、そのスイッチであるチャクラへのアプローチをすれば良い、と説明されています。
Modern science divides the dormant area of the brain into ten parts, whereas in kundalini yoga we divide it into six. The qualities or manifestations of the brain are also sixfold, e.g. the psychic powers. These manifest in different individuals according to the degree of awakening in the corresponding areas of the brain.
現代科学では脳を10の部分に分けますが、サティヤナンダ氏のクンダリニーヨーガでは6つに分けて考えます。
脳の性質が現れる段階も6つに分けられ、その中に超能力の発現なども含まれるといわれます。その現れる度合いは人それぞれ異なり、今は遠隔透視やテレパシーを誰もができるわけではないのはそのせいであるとされます。
世の中に「天才」と呼ばれる人々がいますが、そういった人々は、通常の人々が眠らせたままでいる脳の領域のいくつかを目覚めさせることができた人々であるといいます。
しかしそれはやはり部分的な覚醒であり、もし完全な覚醒が起こったとき、その人はもはや「天才」でもなく、「神の化身」のような存在になるといわれます。
古来から伝わるムーラーダーラチャクラへの誤解
Although the classical descriptions place heavy emphasis on the awakening of kundalini in mooladhara chakra, there is a widespread misconception that kundalini must be awakened there and made to travel through and awaken all the chakras in turn. In fact, the seat of kundalini is actually sahasrara. Mooladhara is only a manipulating center or switch, like the other chakras, but it happens to be easier for most people to operate this switch.
古来からクンダリニーの覚醒にはムーラーダーラチャクラの重要性が強調されてきましたが、クンダリニーがムーラーダーラチャクラで目覚めて、全てのチャクラを順番に目覚めさせながら上昇していくというのは、広く伝わってしまった誤った認識であると説明しています。
たしかに、まさにそのように説明している文献も多くみられますが、サティヤナンダ氏はこれを誤りであるとしています。
実際はクンダリニーの座は頭頂のサハスラーラであり、ムーラーダーラは先に述べられたような「スイッチ」であり、他のチャクラも同様であるといいます。
ここは、サティヤナンダ氏のクンダリニーヨーガにおける重要な理論と思われるので、理解しておくと良いでしょう。
もしムーラーダーラでクンダリニーを覚醒させれば全てのチャクラが順番に目覚めていくのであれば、ムーラーダーラへのアプローチあるいはスシュムナーへのアプローチだけで行法が構成されるかもしれませんが、サティヤナンダ氏の行法は、クンダリニーはムーラーダーラのみで目覚めるのではなく「各チャクラにおいて目覚める」という考え方のもとに、各チャクラへの丁寧なアプローチを基本としています。
各チャクラと脳の覚醒、意識の変化
Each of the chakras is independent; they are not connected with each other. This means, if kundalini shakti awakens in mooladhara, it goes directly to sahasrara, to a particular center in the brain. Similarly, from swadhisthana the shakti passes directly to sahasrara, from manipura it goes straight to sahasrara and so on.
この部分も諸説があるところです。サティヤナンダ氏は、各チャクラは独立していて互いに繋がり合ってはおらず、各チャクラにおいてクンダリニーの覚醒が起こると、それらは直接サハスラーラに到達し、対応する脳の部分を覚醒させる、というように作用すると説明しています。
Kundalini can be awakened in an individual chakra or it can awaken throughout the whole network of chakras collectively. From each chakra, the awakening shock moves up to the top of sahasrara. However, the awakening is not sustained and those centers in the brain return to dormancy. This is what is meant by the return of kundalini to mooladhara.
各チャクラにおいて起こった覚醒は、対応する脳の部分に覚醒をもたらしますが、その効果は長続きせず、再びその脳の部分は休眠状態に戻るといわれます。これはクンダリニーがムーラーダーラへ戻っていくためであると説明されます。
サティヤナンダ氏の行法以外でも、クンダリニーヨーガにおいてはしばしば、覚醒したクンダリニーがムーラーダーラへと下降して戻っていく可能性があることが説明されています。
If kundalini awakens in an individual chakra, the experiences which are characteristic of that chakra will be brought into consciousness.
各チャクラでクンダリニーが覚醒すると、それぞれチャクラごとに異なる意識の変化が起こります。これはクンダリニーヨーガだけでなくいろいろなチャクラ理論などでも説明されることがあります。
たとえば、アナーハタ(心臓のチャクラ)へのアプローチを続けていると「愛」の意識が拡大していく、などといわれます。
網様体(覚醒と休眠を司る組織)への作用
The reticular formation and related areas have an inherent rhythm which is responsible for our sleeping/waking cycles, but it is also largely activated by sensations from outside – by light, sound, touch, etc., and from inside via the autonomic nervous system. It is the latter which seems to account for the more general arousal caused by the kundalini practices and other powerful yoga practices such as kumbhaka or breath retention.
神経システムが高度に活性化すると、脳の新たな部分が活動を始めます。それはおそらく、覚醒・休眠を司るといわれる網様体(reticular formation)の機能が向上することによって起こると説明されます。
網様体は、脳幹の背部に位置し、主に迷走神経を介して呼吸・心拍数・血圧を調節する中枢であり、これらの機能は生命維持に不可欠なので、もし網様体が傷つくようなことがあると命に関わります。
網様体は覚醒・休眠に関わる独自のリズムを持っていますが、これは光や音などの外からの刺激や、自律神経を介した内からの刺激によって大きく影響を受けます。クンダリニーヨーガやクンバカ(息を止めること)などの強力なヨーガの実践などによって起こる網様体の機能の変化は、後者(自律神経を介した内からの刺激)によるものであると思われる、と説明されています。
クンダリニーヨーガやチャクラ覚醒の行法は、このような通常は直接アプローチできないような脳の重要部分に作用する可能性があり、もちろん命に関わることもあるため、慎重に行法を実践していく必要があります。実際のところ、クンダリニーは「生」「死」に直接的に関係するものであるように思われます。
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参考文献
「Kundalini Tantra 英語版 ペーパーバック」 Swami Satyananda Saraswati (著)
「Kundalini Tantra 英語版 Kindle」 Swami Satyananda Saraswati (著)
「クンダリニー」ゴーピ・クリシュナ (著), 中島巌 (翻訳)
「Asana Pranayama Mudra Bandha 英語版」Swami Satyananda Saraswati (著)