「KUNDALINI TANTRA(クンダリニー・タントラ)/Swami Satyananda Saraswati(スワミ・サティヤナンダ・サラスワティ)著」を読み進めていく形で、クンダリーニヨガ(クンダリニーヨーガ)の概要を紹介していきます。
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今回は、第1章の4節の後半、クンダリニーと神経や意識に関する部分です。
(引用部分の太字強調は私が個人的に重要と思ったところを示したものです。)
クンダリーニヨガの研究については、以下のページにまとめてあります。
用語:クンダリニー(クンダリーニ)・チャクラ・ナディ(ナーディー)
クンダリニーとは、エネルギーなのか神経伝達なのか?
These schools of thought use different descriptions to convey the experience of kundalini, but they all agree that the experience of kundalini is a total psychophysiological event which centers around the spinal cord. Within the spinal cord there is a very important fluid, the cerebrospinal fluid. When, through practices such as pranayama, awakening occurs in mooladhara chakra, this fluid gets excited.
クンダリニーに関する定義は様々なものがありますが、その全てに共通するのは、クンダリニーは脊髄周辺を中心として起こる心理生理学的な現象であるといわれます。
脳幹から脊髄には脳脊髄液が通っており、意識の変化などにおいてこれを非常に重要なものであると捉えます。プラーナーヤーマなどの実践によって、ムーラーダーラで覚醒が起こると、この脳脊髄液が沸き立ち、椎骨の間を移動することによって、人間の進化に関わる意識の変容が起こる、と説明されます。
実際、脳脊髄液の移動は尾骨仙骨の動きによって導かれるため、ムーラバンダやアシュヴィニムドラーのような骨盤底筋にアプローチする行法は、尾骨を動かし脳脊髄液の動きを促します。その動き自体は血流のように速いものではありませんが、わずかな流れが脳や神経に大きな影響を与えるということでしょう。
筋収縮による脳脊髄液の動きとチャクラ覚醒の関係性などは、ジョー・ディスペンザ氏なども詳しく解説しています。
「超自然になる ― どうやって通常を超えた能力を目覚めさせるか」ジョー・ディスペンザ (著)
また、血液に関しては脳の入口に厳密な関門があり、脳と他の部分で明確に区切られているのに対して、脳脊髄液の流れは脳幹から脊髄へつながっていることから、重要なつながりをもたらしているのではといった研究があり、そのあたりは以下の書籍などで比較的わかりやすく説明されています。
「脳を司る「脳」 最新研究で見えてきた、驚くべき脳のはたらき (ブルーバックス) Kindle版」毛内拡 (著)
When the cerebrospinal fluid moves through the vertebral column, it alters the phases of consciousness and this is a very important process as far as evolution is concerned.
脳や脳脊髄液などに関する科学的な研究は、まだまだ解明されていない部分も多いですが、クンダリニーヨーガの行法はこれらの働きに関係し、今まで使われていなかった脳の機能を呼び覚まして、意識の変容・進化といったことにつながっていくと考えられます。
心の働きと脳脊髄液、そして進化との関係
It is the chitta or consciousness which undergoes evolution in man. Chitta does not have a location point in the body, it is psychological in nature, but it is controlled by the information supplied by the indriyas or senses. While chitta is being constantly supplied with information, its evolution is blocked, but if you prevent the passage of information from the indriyas, chitta will evolve very quickly. That is to say, if you isolate chitta from the information being relayed through the eyes, nose, ears, skin and tongue, chitta is then compelled to experience independence.
ヨーガスートラのヨーガでコントロールするべき対象として挙げられるチッタ(心の作用)と、進化の関係についてここで述べられています。チッタは通常時、インドリヤ(五感を生じさせる感覚器官)から情報を得つづけていますが、その状態にいるとき進化の過程は妨げられていると説明されます。
五感から得られる情報を遮断しチッタが影響を受けない状態になると、進化が速やかに促進されるといいます。情報過多な現代社会において瞑想が流行り始めているのも、このあたりと関係があるように思えます。
脳脊髄液がプラーナーヤーマによって影響を受けると、五感の働きが鈍くなり、そこから得られる情報がチッタに至る過程が非常にゆっくりになると説明されています。それによってチッタは、内的経験の方へと焦点を移すようになっていくといいます。
One world renowned scientist, the late Itzhak Bentov, put forward the theory that kundalini is an effect caused by the rotation of nerve impulses around the cortex of the brain during meditation. He considered that this is caused by rhythmical pressure waves which result from the interaction of the heart beat, breathing, and the fluid inside the skull, thereby causing the brain to oscillate up and down which stimulates specific nerve currents in the brain.
科学者のItzhak Bentov(イツァク・ベントフ)氏は、クンダリニーは瞑想中に大脳皮質で起こる神経インパルスの回転によるものであるという理論を主張したといいます。それが起こるきっかけとしては、心臓の拍動や、呼吸、脳脊髄液の動きなど、リズミカルな波の圧の刺激が脳の中に特殊な神経の流れを生み出すためであるとしています。
リズミカルな刺激がクンダリニー覚醒において重要であるというのは、様々な行法をみても共通するところであると思われます。これはオーガズムなどにも共通するところであり、クンダリニーが性に関係するエネルギーであることも感じ取れます。
イツァク・ベントフ氏の書籍は日本語訳も出版されています。物理学者の視点から、この世界がどのように生まれ、進化していくのかといったことが描かれていて、途中からだんだん根拠がわからない話になっていくので混乱するかもしれませんが、なかなか興味深いです。Amazonでの評価はやたらと低いですが…。
「ベントフ氏の超意識の物理学入門」イツァク ベントフ (著), スワミ・プレム・プラブッダ (翻訳)
クンダリニーヨーガの目的
The aim of kundalini yoga is not really to awaken the power of man, but rather to bring the power down to earth or to bring the power of the unconscious or higher consciousness, to normal consciousness. We have no need to awaken the consciousness, for it is ever awake. We have only to gain complete control over our higher conscious forces.
クンダリニーヨーガの目的は、人間の持つ秘められた力を目覚めさせるのでなく、高次元の意識の持つ力を通常意識へと運んでくることであると説明されています。「意識を目覚めさせる」のが目的ではなく、それは常に目覚めているものであり、その高次元の意識が持つ力を、完全にコントロールできるようにするのが目的であるといいます。そのためにクンダリニーヨーガでは、ムーラーダーラからアージュニャーまでのチャクラを機能させ、高度な智が現れることを目指します。
現代において人は物質次元の多くの事物をコントロールできるようになり自然の持つ神秘的な力を発見してきましたが、ここからはスピリチュアルな次元をコントロールできるようになっていくべきであるとしています。
慎重な言い回しで細かい概念が説明されていますが、行法の実践に入る前に、このあたりの誤解がないようにしておくことは重要であると思います。
雲をつかむような存在だったクンダリニーというものが、脳神経に注目することによって少し具体的・物質的に捉えられるようになり、リズミカルな刺激がその覚醒を促すという行法のイメージも少し明らかになってきました。
次回から始まる5節では、クンダリニー覚醒のための様々な道の概要が示されます。
次記事:「クンダリニー・タントラ/サティヤナンダ(著)」を読む【14】第1章 5節:クンダリニー覚醒に至る10の道
前記事:「クンダリニー・タントラ/サティヤナンダ(著)」を読む【12】第1章 4節-1:クンダリニーと脳の関係
参考文献
「Kundalini Tantra 英語版 ペーパーバック」 Swami Satyananda Saraswati (著)
「Kundalini Tantra 英語版 Kindle」 Swami Satyananda Saraswati (著)
「クンダリニー」ゴーピ・クリシュナ (著), 中島巌 (翻訳)
「Asana Pranayama Mudra Bandha 英語版」Swami Satyananda Saraswati (著)