ハタヨーガの古典の中で、最も体系化されているとして重要視されているハタヨーガプラディーピカー。
今回は、ハタヨーガを行う上で適した食事などに関する部分を紹介します。
以下、日本語訳は「ヨーガ根本経典/佐保田鶴治」から引用しています。
この記事の目次
節食の心得
1.58 バターと甘味をもって味つけされた食物、胃の四分の一を空けておくこと、ただ生命への愛だけから食事をすること、これが節食といわれるものである。
ヨーガやアーユルヴェーダにもいくつか説がありますが、「3/5を食べ物で、1/5を水で満たし、1/5は空にしておくべし」という考え方もあります。細かい割合は置いておいて、満腹まで食べないようにする「腹八分目」と近いものを感じます。
「ただ生命への愛だけから食事をする」というのはとても良い響きです。禅宗でも、私が行っていたインドの教室でも、お経・マントラを唱えて感謝を表してから食事をします。
とはいえこの部分は訳者によってかなり解釈が異なるようで、別の本では「シヴァ神を喜ばせるために行う」と書かれています。
いずれにしても、利己的な気持ちで自分を満足させるために食事するのではない、と捉えておくと良いかと思います。
ヨーガ行者に適した食事・適さない食事
1.59〜60 辛いもの、酸っぱいもの、刺激性のもの、塩からいもの、熱いもの、菜っぱ、ビンローシュの実、ごまの油、ごま、からし、酒、魚、羊肉などの獣肉、凝固した牛乳、水でわったバターミルク、クラタ豆、ジュジュベの実、油であげた菓子、ヒングウ樹脂、にんにく等は行者には不適当な食物といわれている。
また、次のようなものも不健康な食物と心得るべきである。一旦冷えたものを温めた食物、油気がなくて乾いた食物、過度に塩からいもの、酸味をおびたもの、不消化なもの、野菜、ウトカタ(ある植物の皮で作った香料)等は避けるがよい。
具体的な品目もいくつか書かれていますが、「辛いもの」「酸っぱいもの」などの分類をみると、アーユルヴェーダにおける食物の分類を踏まえているように思えます。
≫食物の6味と6性質 〜今の体質(ドーシャ:ヴァータ・ピッタ・カパ)に合ったものを食べる、アーユルヴェーダの助言〜
人それぞれ、現在のドーシャバランスに合わせた食べ物を選ぶと良いのですが、ここではドーシャバランスに関わるものをほとんど全て挙げているようです。つまり、バランスを左右するものは全てやめておくべし、という考え方なのかもしれません。だとすると、食べられるものがかなり限られてしまいそうですが、何を食べたらいいのか?
1.62〜63 行者(ヨーギー)にとって好適な食物は次の如くである。小麦、米、大麦、早稲米、優秀な穀物、生乳、バター、氷砂糖、新鮮なバター、白砂糖、蜜、ほししょうが、きうりなどの五種の野菜、豆類、清水等である。
またヨーギーは栄養になる食物、甘味のあるもの、バター入りの食物、牛乳入りのもの、体力をつけるもの、その他自分の好む適当なものを食するがよい。
アーユルヴェーダで推奨される「サットヴァ(純粋)」な食べ物がざっと並んでいます。サットヴァではなくラジャス(動性)・タマス(惰性)を高める食べ物を摂ってしまうとバランスが崩れるとされているため、やはりバランスを崩すものを避けるべしという考え方が読み取れます。
≫食べ物で、心も変わる 〜アーユルヴェーダとトリグナ(サットヴァ・ラジャス・タマス)〜
しかし最後の「その他自分の好む適当なものを食するがよい。」と言われたらなんでもいいのかと思いますが、別の本ではこのように解釈されていないので、訳者による意訳かもしれません。
訳者による解釈の違いはヨーガスートラよりも振れ幅が大きく、やはりいずれは私もサンスクリットから直訳したいところです。
「はじめのうちは」避けるべきこと?
1.61 初めのうちは火、女、旅などの趣味に関する禁忌を守らなければならない。
聖者ゴーラクシャに次の如き語がある。
悪人の近くに住むこと、火のそばにいること、女子と性交すること、長い旅をすること、早暁の水浴、断食、その他肉体を苦しめる行為等は避けねばならない。
基本的にヨーガの古典は男性目線で書かれています。佐保田氏は「女子と性交すること」と解釈していますが、別の本ではそうなっていない場合もあります。ここの解釈はかなり曖昧なので、鵜呑みにしないほうが良さそうです。水浴や断食も、ここでは禁止されていますが、推奨されている場合もあったり、諸説あるようです。
具体的な方法論になってくると、「諸説ある」というのが率直なところでしょう。人それぞれバックグラウンドも体の状態も異なるので、諸説あるのが当然だと思います。
ハタヨーガプラディーピカーをまとめた編者は、自身の体験から得られた知識なのか、伝聞から得られた知識なのかはわかりませんが、それなりの意図があって記したのでしょう。
なので、ひとつのヒントとして捉えておき、参考になりそうなものは自分で試して、確かめていくしかないのだと思います。
≫ハタヨーガプラディーピカー概説 1.64〜1.67 〜実践あるのみ〜
≪ハタヨーガプラディーピカー概説 1.17〜1.57 〜18アーサナ簡単解説・アーサナの目的〜
参考文献
「サンスクリット原典 翻訳・講読 ハタヨーガ・プラディーピカー」菅原誠 (著)
「Asana Pranayama Mudra Bandha 英語版」Swami Satyananda Saraswati (著)