月1回オンラインレッスンをしている企業の方と、来月のレッスンのテーマについて相談しているときに、そろそろ梅雨で季節の変わり目なので「自律神経を整える」系の内容はどうですかねなどと話していたら、
「そもそも自律神経って何なんだろう?」という話になったので、自律神経の基礎知識と、整え方について簡単にまとめておきます。
この記事の目次
自律神経の基本
人には、まわりの状況に合わせて体の状態を変える仕組みが備わっています。
その仕組みにはいくつか種類があり、ざっくりいうと、すぐに局所的に対応する自律神経系の仕組みと、ゆっくり全体的に対応して効果が持続する内分泌系(ホルモン)の仕組みがあります。
呼吸数や血圧など、「意識せずとも」対応してくれるので、「自律」という名前がつけられています。
しかしその仕組みを理解すると、これをある程度「意識的に」コントロールすることもできるようになります。
交感神経と副交感神経
自律神経には、主に心身が活動的なときに働くと言われる交感神経と、主にリラックスしているときに働くと言われる副交感神経があります。
交感神経は、「闘争・逃走」のときに働く機能につながると考えるとわかりやすいかと思います。
戦ったり逃げたりするとき、興奮・緊張して、素早く思考したり行動したりできるようになります。
副交感神経は、ざっくり分ければ「闘争・逃走」するとき以外の「休息・リラックス」するときに働く機能につながり、食べ物の消化をしたりウィルスに対する免疫を働かせて体内の病気を治したりします。
交感神経 | 副交感神経 | |
---|---|---|
瞳孔 | 拡大 | 縮小 |
気管支 | 拡張 | 収縮 |
血圧 | 上昇 | 低下 |
心拍数 | 増加 | 減少 |
胃腸 | 抑制 | 活発 |
血管 | 収縮 | 拡張 |
発汗 | 促進 | 抑制 |
腸管神経系
また、交感神経・副交感神経の他に、脳につながっていない不思議な「腸管神経系」という神経ネットワークが腸の周辺にあり、これを「第三の自律神経」とする場合もあります。まるで脳のように神経細胞が多いことから、「第二の脳」などと考えることもあり、ここが感情を司っていると言われることもあります。
近年、腸の重要さが特に言及されるようになったのは、このような神経の研究によるところもあるようです。
副交感神経を二つに分けて考える、ポリヴェーガル理論
従来の自律神経の考え方では、交感神経の「闘争・逃走」と副交感神経の「リラックス」というように分けられるのが一般的でしたが、副交感神経系を構成する迷走神経は、腹側と背側に分かれていると考える「ポリヴェーガル理論」が近年提唱されています。「ポリ」は複数、「ヴェーガル」は迷走神経です。
参考:からだのためのポリヴェーガル理論/スタンレー・ローゼンバーグ (著)|書籍紹介
科学的な証明はまだ十分にされていないようですが、心理療法や子供の教育などにおいて脚光を浴びています。
背側の迷走神経はより古く、爬虫類のころからある神経系であり、「どうしようもない」ときに「フリーズしてやりすごす」というモードに体を切り替えます。
腹側の迷走神経はより新しく哺乳類にしかないと言われ、「安心」して「社会的交流」を行うというモードに体を切り替えます。
交感神経と、背側・腹側の迷走神経、これら3つについてヨーガ業界では、交感神経の働きをラジャス、背側迷走神経の働きをタマス、腹側迷走神経の働きをサットヴァ、というようにトリグナと対応させて考えることもあるようです。
自律神経が乱れると、どうなる?
神経は、興奮状態が続くと正常に機能しなくなります。現代では興奮状態が続いてしまうことが多いかもしれません。
ちなみに「自律神経が乱れる」とよく言いますが、自律神経は必要な対応をしてくれているだけで、乱れているのは環境・状況と言えるかもしれません。
切り替えがうまくできなくなる
自律神経が乱れると、上記のような活動時と休息時に働くはずの機能が、うまく切り替えできなくなってしまいます。
たとえば常に緊張していたりストレスがかかっていたり、目や耳を使いすぎていたりしていると、消化やウィルスへの免疫など休息時に働くはずの機能がうまく働かなくなってしまいます。
あるいは逆に、仕事や勉強をしなくてはならないときに、なかなか血流がよくならず、頭と体が働かないといったこともあります。
眠れなくなる・睡眠の質が下がる・目覚めが悪くなる
切り替えがうまくできていないと、睡眠に入っていくことも難しくなります。
また、寝られたとしても睡眠が浅くて疲れがとれず、目覚めも悪くなったりします。
免疫が乱れ、病気やアレルギーになりやすくなる
交感神経は主に細菌や寄生虫などに対する免疫を高め、副交感神経は主にウィルスに対する免疫を高めると言われています。
闘争・逃走中には傷を負ったり食べ物や水を口にすることもあるため、細菌や寄生虫への耐性が必要で、休息時にはそれよりも呼吸時のウィルスへの耐性や、体内にあるウィルスを退治して病気を治すための免疫が働くということなのでしょう。
これらの免疫が弱まれば病気になりやすくなり、強くなりすぎれば正常な細胞を攻撃してアレルギーになってしまいます。バランスが大切です。
心に関する不調が現れる
自律神経と心の働きは相互に関係しています。
常に緊張している状態が続いてしまったり、逆に無気力な状態が続いてしまったり、小さな刺激にも過敏になってしまったり、逆に全てに対して鈍感になってしまったり、バランスの偏った心・感覚の状態になってしまうこともあるかもしれません。
性に関する不調が現れる
また、自律神経は男女の性に関する機能にも大きく関わっています。自律神経を整えることで、性生活や不妊の改善のきっかけにもなるかもしれません。
これについては性教育のような内容になるので、また別の記事で書こうかと思います。
ヨーガの技法の中にも、実は性に関するものがたくさんでてきます。
参考:「クンダリニー・タントラ」を読む【27】第1章 14節:性とヨーガとタントラ
自律神経の整え方
自律神経が乱れる原因であり、整えるきっかけとなるものとしては、以下のようなものがあります。
- 呼吸
- 背骨
- 心
これらは別々のものではなく、密接に関係しています。
どこからでも崩れますし、どこからでも整えられます。
それぞれ別々に整える実践をしても意味がありますが、すべて意識しながら整えようとしていくと、より効果が高まるでしょう。
呼吸を整える
深くゆっくり呼吸をします。
腹と胸を全部使って、1呼吸に10秒以上はかけて呼吸する練習をします。
参考:花粉症を改善するかもしれない、自律神経を整えるヨガの呼吸法
背骨を整える
前屈・後屈・ねじり・側屈などの運動をして、背骨を整えます。
また、ふだんから姿勢を整えるように意識すると良いでしょう。
参考:花粉症を改善するかもしれない、背骨と自律神経・免疫力を整えるヨガポーズ
心を整える
上記の「呼吸」でもいいので、なにか「集中するもの」を決めて瞑想をします。
瞑想とは、集中がとぎれない状態です。まずは2〜3分くらいからでもいいので、練習しながらだんだん長くしていきます。
雑念が入ってきたら、なるべくすぐに集中対象にもどるようにします。雑念が入るのは悪いことではなく、雑念からすぐに集中へもどるための練習です。練習していくと、だんだんそれがうまくなっていきます。
雑念から離れて、今やるべきことに集中を戻す。それこそが「切り替え」の練習であり、「自律神経の切り替え」につながります。
参考:心身の変化に気づく、セルフチェック法 〜自律神経・メンタルへのマインドフルネス〜
ちなみに自律神経系も内分泌系も主な中枢は、脳の中央付近の視床下部にあり、感覚を受け取った脳がこれらの仕組みを連携させて対応しています。
ヨガでいうところの第6チャクラは、視床下部から情報を受け取って全身のホルモンをコントロールする脳下垂体にあると言われ、そのチャクラの名前である「アージュニャー आज्ञा ājñā」は「司令塔」といった意味です。
視床下部や脳下垂体と言われてもよくわからないことが多いかと思いますので、多くの場合は「眉間」に意識を集中する瞑想を行ってこのチャクラの働きを高めます。
呼吸に合わせて、眉間からエネルギーが流れ込み、いらないものが出ていく、というようなイメージをします。これも良い瞑想法となるでしょう。
参考:「クンダリニー・タントラ」を読む【30】第2章 3節:アージュニャーチャクラ
自分に合った、自律神経の整え方を身につける
おそらく現代人にとっては、心のコントロールが一番の課題かと思います。
心を整えるといっても、「心を整えよう」と思ってもなかなか難しいでしょう。その場合は、心ではなく背骨や呼吸を整えることで、心も整っていきます。ヨガなどの運動をすると心が整っていくというのは、そういう仕組みです。
もし瞑想や運動をする気すら起きないというときは、たとえばシンプルに日光を十分浴びる・散歩するなど、他にもいろいろな方法があります。
心の切り替えがうまくできていないために「偏り」が生まれ、自律神経が乱れます。それは、呼吸が浅かったり、背骨が歪んで姿勢が悪かったりすることと、深い関係があります。
自分に合った整え方を身につけて、全体を意識しながら整えていき、心身の偏りを自分でなおせるようにしていけると良いかと思います。