現存するハタヨーガの三大教典のひとつ、シヴァサンヒターの概説です。
今回は第5章、スワディシュターナチャクラからサハスラーラチャクラまでの説明を読んでいきます。
このあたりは比較的シンプルに各チャクラの説明が続いていくので、前記事で出てきたムーラーダーラチャクラについても並べて、比較しやすいようにまとめていきます。
以下引用部分は基本的に以下書籍の佐保田鶴治氏の訳を用い、必要に応じてヴァス氏・マリンソン氏の訳と比較しながら進めていきます。
この記事の目次
ムーラーダーラチャクラ
位置:肛門から二指だけ上方で、リンガ(男根)の下一指のところ
蓮華の花弁:4枚、梵字はvaṃ, śaṃ, ṣaṃ, saṃ
色:金色
シッダ尊:ドゥヴィランダ
女神:ダーキニー
念想することによる効果:
- ダールドゥリー・シッディ(カエルの如く高く飛び上がる超能力)が得られ、次第に高く大地を離れることができるようになる。
- 身体はますます美しくなる。
- 食物消化の火は増強する。
- 無病と鋭敏さと一切智が現れる。
- 過去・現在・未来の出来事を、その原因もろとも知り尽くす。
- 未分の教説をも、その秘儀と一緒に悟る。
- 老衰、死、その他無数の苦患の奔流が消滅する。
- 罪の激流は確実に消え去る。
- 心中に念願する結果はすべて実現する。
- 解脱の付与者である神に会う。
- 毎日怠りなく念想することで、6ヶ月でシッディが得られ、気はスシュムナー気道に入る。
- 精神を克服し、気と精液の保存に成功する。
- この世とかの世におけるシッディを得る。
スヴァディシュターナチャクラ
位置:性器の根元
蓮華の花弁:6枚、梵字はbam, bham, mam, yam, ram, lam
色:深紅
シッダ尊:バーラ
女神:ラーキニー(Rākinī)
念想することによる効果:
- 恋の女神たちはことごとく愛情に狂って奪い合う。
- 学んだことのない種々の教典をも誦出する。
- あらゆる病患から解放され、この世の中で恐るるところなく活躍する。
- 死はヨーギーによって食され、ヨーギーは何者にも食せられない、
- 微細身などの超能力を付与するシッディを得られる。
- 気は体内をあまねく流れ、体液は必然的に増加する。
マニプーラチャクラ
位置:ヘソ
蓮華の花弁:10枚、梵字はḍaṁ, ḍhaṁ, ṇaṁ, taṁ, thaṁ, daṁ, dhaṁ, naṁ, paṁ, phaṁ
色:金色
シッダ尊:ルドラ
女神:ラーキニー(Lākinī)
念想することによる効果:
- 不断に幸福を恵むところのバーターラ・シッディが得られる。
- この世において欲するものが手に入り、苦と病は消える。
- 死神をだまして生き延びることができる。
- 他人の体内に入り込むことができる。
- ジャーンブーナダ(黄金)などの貴金属を製造する。
- シッダ聖衆の姿を見る。
- 薬草を発見する。
- 地中に埋蔵されている宝物を透視することができる。
アナーハタチャクラ
位置:心臓
蓮華の花弁:12枚、梵字はkaṁ, khaṁ, gaṁ, ghaṁ, ṅaṁ, caṁ, chaṁ, jaṁ, jhaṁ, ñaṁ, ṭaṁ, ṭhaṁ
色:深紅
シッダ尊:ピナーキー
女神:カーキニー
念想することによる効果:
- 愛情に打たれた天女たちのあこがれの的になる。
- 過去現在未来に対する無限の智を得る。
- 遠聴・遠視の力を得る。
- ケーチャリー(空中歩行の力)、ブーチャリー(世界を意のままに速い速度で飛び歩く力)を得て、望みのままに空中を歩くことができる。
- 空中を飛ぶものをことごとく支配する。
- シッダ聖衆、ヨーギニー女神の姿を見る。
- 語り尽くせぬほどの霊験を得る。
- 現界と幽界における目的が遂げられる。
ヴィシュッディチャクラ
位置:ノド
蓮華の花弁:16枚、梵字はaṁ, āṁ, iṁ, īṁ, uṁ, ūṁ, ṛṁ ṝṁ ḷṁ ḹṁ eṁ aiṁ oṁ auṁ aṁ aḥ(母音の全て)
色:金色
シッダ尊:チャガラーナンダ
女神:シャーキニー
念想することによる効果:
- ヨーギーの支配者たる賢者となる。
- 鉱床からダイヤモンドが出てくるかのように、四ヴェーダがその奥義を帯同して現れる。
- このチャクラに念想しているヨーギーがもし怒りに支配されたとき、全世界が恐れふるえる。
- チャクラへ偶然に没入した時でも、必然的に外界を捨離して、自己の内面において法悦にひたることになる。
- 肉体は千年を経ても朽ち滅びない。ダイヤモンドよりも堅くなる。
- この念想の行を終えたとき、過ぎた幾千年が一瞬の時のように感ずる。
アージュニャーチャクラ
位置:眉間
蓮華の花弁:2枚、梵字はham, kṣam
色:白色
シッダ尊:マハーカーラ
女神:ハーキニー
念想することによる効果:
- チャクラの中にある秋月の如く明るい不滅の種字があり、それが輝いていることを知ったときヨーギーはパラマハンサ(大覚者)となって、二度と退堕することはない。
- 至上のシッディを得る。
サハスラーラチャクラ
位置:ブラフマランドラ(梵洞、頭の中、口蓋の根元)
一般的に第7チャクラとして知られているサハスラーラについては、そこに至る気道の話や、ムーラーダーラとの関係性などを含めて、かなり別格な形で説明されています。このあたりは次記事で、気道について書かれた部分をまとめていきます。
クンダリニータントラでも、サハスラーラ自体の覚醒法は行法に含まれておらず、他のチャクラとは異なるものとして扱われていました。
サハスラーラという言葉は「千」などの意味を持ち、他のチャクラとは桁違いの1000枚の花弁を持つと言われます。神智学などでは972枚といった数も見られます。
参考:「クンダリニー・タントラ」を読む【37】第2章 10節:サハスラーラの位置や特徴
参考:「クンダリニー・タントラ」を読む【48】第3章 11節:各チャクラの覚醒と統合
シヴァサンヒターで示されるチャクラの全体的な特徴について
ざっと書かれていることを整理してきましたが、現代ヨガで一般的に知られているチャクラの特徴と、一致するところもあれば異なるところもあるという印象です。
チャクラの位置は、概ね同じようですが、ムーラーダーラ以外は結構ざっくり書かれています。このあたりは現代ヨガでも微妙に異なる説が乱立していますので、注意深く理解する必要なあります。
参考:チャクラ研究まとめ|位置・数・覚醒(チャクラを開く)方法・チャクラの整え方

チャクラの色については、現代では虹の七色が割り当てられていることが多く、たとえばムーラーダーラは赤、スヴァディシュターナはオレンジなどと言われますが、シヴァサンヒターでは下位チャクラから順番に深紅と黄金が交互に並び、アージュニャーは白色となっていて、現代の解釈とは異なっているか、別の光のことを表している可能性があります。
チャクラの花弁の数や梵字は、現代のヨガと概ね共通しているようですが、これも諸説があって微妙に異なるものもあります。アージュニャーチャクラについては、神智学などでは96枚の花弁が2枚にまとまって見えるのである、と説明されることもあります。
各チャクラの覚醒法については、詳しく書かれているわけではありませんが、基本的にはやはり「念想する」とだけ示されています。チャクラに対して念想するだけで、ものすごい効果が現れると語られてきました。バンダや呼吸法といった肉体的動きを伴う行法は、念想するための足がかりにはなりますが、チャクラを機能させる上で重要なのは肉体的な動きよりも念想ということになるのでしょう。
この後、チャクラを通る気道(ナディ)に関する詳しい説明が始まります。
次記事:(執筆中)
前記事:シヴァサンヒター概説【16】5.78-5.102 ムーラーダーラチャクラとクンダリニー


