ハタヨーガの重要な教典の中でもたくさんの技法が載っている、ゲーランダサンヒターを読んでいきます。
今回は、アーサナ(ポーズ・坐法)について書かれている部分を紹介しつつ、ハタヨーガプラディーピカーのアーサナとの比較をしてみます。
下記引用部分は、特に記載のない限り「ヨーガ根本教典 (続) /佐保田鶴治」を出典とします。
この記事の目次
32種のアーサナ一覧
2.1 アーサナの総計は生物の数にひとしいが、シヴァ大神は太古に八千四百万のアーサナを説かれた。
2.2-6 その中で八十四のアーサナが優れているとされる。この八十四の中でも、人間社会においては三十二のアーサナがすばらしい。
一 シッダ(Siddha)
二 パドマ(Padma)
三 バドラ(Bhadra)
四 ムクタ(Mukta)
五 ヴァジラ(Vajra)
六 スヴァスティカ(Svastika)
七 シンハ(Simha)
八 ゴームカ(Gomukha)
九 ヴィーラ(Vira)
十 ダヌル(Dhanur)
十一 ムリタ(Mṛta)
十二 グプタ(Gupta)
十三 マッチア(Matsya)
十四 マッチェーンドラ(Matsendra)
十五 ゴーラクシャ(Gorakṣa)
十六 パシュチモターナ(Paścimottāna)
十七 ウトカタ(Utkata)
十八 サンカタ(Saṅkata)
十九 マユーラ(Mayūra)
二十 クックタ(Kukkuta)
二一 クールマ(Kūrma)
二二 ウッターナ・クールマカ(Uttāna-kūrmaka)
二三 マンドゥーカ(Maṇḍūka)
二四 ウッターナ・マンドゥーカ(Uttāna-maṇḍūka)
二五 ヴリクシャ(Vṛkṣa)
二六 ガルダ(Garuḍa)
二七 ヴリシャ(Vṛṣa)
二八 シァラバ(Śalabha)
二九 マカラ(Makara)
三〇 ウシュトラ(Uṣṭra)
三一 ブジァンガ(Bhujaṅga)
三二 ヨーガ・アーサナ(Yoga-āsana)
現代ヨガでも数々のアーサナ(ヨガポーズ)が行われていますが、一体アーサナというのはいくつあるのか。
現代ヨガが主に参考にしているアイアンガー氏のアーサナ本「ハタヨガの真髄(Light on Yoga)」には約200種類のアーサナが載っています。
ハタヨーガプラディーピカーにはバリエーションを含めて18種類、ゲーランダサンヒターには32種類のアーサナが載っています。
それでは昔のアーサナは少なかったのかというと、じつはハタヨーガの文献には生物の数と同じ84,000,000のアーサナがあるのだと説かれています。それを生物種別に分類したものの中から84のアーサナが重要であると示されています。
実際その84のアーサナが示されている文献(Hatharatnavaliなど)もありますが、名前が書かれているだけで解説がなかったりするためやり方は定かではありません。
じゃあアーサナ名には全部生物の名前がついているのかというと、ダヌル(弓)とかもあるし、そうでもないですね。このへんはツッコミどころが多いです。
しかし昔のアーサナの名前には動物・植物・神・道具や武器などの名前が多いように思えるので、トリコーナ(三角)やパダングシュタ(足の親指)といったような名前のものとは成立時期が異なるのかもしれません。
ハタヨーガプラディーピカーのアーサナとの比較
ハタヨーガプラディーピカーのアーサナ一覧は下記の通りです。
- スヴァスティカーサナ
- ゴームカーサナ
- ヴィーラーサナ
- クールマーサナ
- クックターサナ
- ウッターナ・クールマーサナ
- ダヌラーサナ
- マツェンドラーサナ
- パスチモッターナーサナ
- マユラーサナ
- シャヴァーサナ
- シッダーサナ1・2
- パドマーサナ1・2・3
- シンハーサナ
- バドラーサナ
ゲーランダサンヒターのアーサナ一覧の中ではシャヴァーサナがムリターサナになっていますが、これらは同義語なので同じものです。
比べてみると、減ったものは、
- シッダーサナのバリエーションが減った。
- パドマーサナのバリエーションが2つ減って、ハタヨーガプラディーピカーで1つ目に示されていた形(現代のバッダパドマーサナ)だけになった。
増えたものは、
- ムクターサナ
- ヴァジュラーサナ
- グプターサナ
- マツヤーサナ
- ゴーラクシャーサナ
- ウトゥカターサナ
- サンカターサナ
- マンドゥーカーサナ
- ウッターナ・マンドゥーカーサナ
- ヴリクシャーサナ
- ガルダーサナ
- ヴリシャーサナ
- シャラバーサナ
- マカラーサナ
- ウシュトラーサナ
- ブジャンガーサナ
- ヨーガーサナ
(表記は現代ヨガでよく用いられるものに置き換えています)
また、同じ名前でも全く異なる形になっているものは、
- ゴームカーサナ
- ヴィーラーサナ
- ダヌラーサナ
- マツェンドラーサナ
- バドラーサナ
となっています。
こうしてみると、じつは2つの教典のアーサナ内容はかなり異なっているように思えます。現代ヨガでも、同じ名前で全く違うアーサナがあったり、同じ形で全く違う名前がついているアーサナもありますが、いろいろな経緯を経て変更が加えられていったのでしょう。
ハタヨーガプラディーピカーでは最重要なアーサナとしてシッダ・パドマ・シンハ・バドラの4つを挙げていますが、ゲーランダサンヒターではとくにそのような格付けはないようです。
しかし、シッダ・パドマ・シンハのアーサナのやり方は2つの教典で共通していることから、これらはやはりハタヨーガの中では重要だったのかもしれません。
(次)ゲーランダサンヒター概説2.7-2.44 〜ハタヨーガプラディーピカーのアーサナとの比較〜
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