現存するハタヨーガの重要な古典としては、下記の3つがよく挙げられます。
- ハタヨーガプラディーピカー
- ゲーランダサンヒター
- シヴァサンヒター
ハタヨーガプラディーピカーについては概説を一通り書きましたので、今回はゲーランダサンヒターについて紹介していきます。
ゲーランダサンヒターはハタヨーガプラディーピカーよりも後に成立したと思われ、ハタヨーガプラディーピカーよりも多くのアーサナやハタヨーガの技法が載っています。
そのためハタヨーガの百科事典的に扱われ、現代ヨガの父と呼ばれるクリシュナマチャリア氏らの本にもよく引用されています。
参考:「現代ヨガの父」クリシュナマチャリア氏の主著「ヨガマカランダ」の概要
現代ヨガで行われているアーサナや呼吸法に近いものもありますが、ハタヨーガで重要視されている技法の多くは、「ハタヨガを元にしている」と言われている現代ヨガでもほとんど行われていません。
古典におけるハタヨーガと現代ヨガの違いについて知っておくことは、「アーサナをできるようにならなくては…」といったような現代ヨガの技法への執着から脱して、ヨガというものを客観的に観るためのヒントになるかと思います。
この記事の目次
ゲーランダサンヒターの概要
ゲーランダサンヒターはおそらく17世紀後半に成立したと言われます。ハタヨーガプラディーピカーは15〜17世紀ごろ、ハタヨーガの起源としては11世紀ごろと言われているので、ハタヨーガのテキストとしてはかなり後半に出てきたものです。
そのため、載っているアーサナや呼吸法などの技法はかなりバリエーションが増えています。たとえば現代ヨガでも行われているカパラバティにも、3種類のやり方が書かれています。
「ゲーランダ」は人物の名前で、「サンヒター」は通常「本集」と訳されます。
ゲーランダ師匠が、弟子のチャーンダ・カーパーリに教えるという形式で書かれています。
現存しているものには、資料によって内容が微妙に異なるものもあるようなので、本来の内容がどうだったのかははっきりしません。
私はひとまず「ヨーガ根本教典 (続) /佐保田鶴治」「やさしく学ぶYOGA哲学 ハタヨーガ 基礎と実践/向井田みお」の2冊を参考にして、私なりの概説を書いていこうと思います。
ゲーランダサンヒターの構成
ゲーランダサンヒターは7章に分かれています。そのため、8支則のアシュターンガ・ヨーガと比較してサプターンガ・ヨーガ(7段階のヨーガ)と呼ばれることもあります。ハタヨーガプラディーピカーは4章なので、チャトラーンガ・ヨーガ(4段階のヨーガ)です。アシュトが8、サプタが7、チャトルが4です。
7章の構成は下記の通りです。原著にタイトルがついているわけではないので、訳者によって便宜上タイトルをつけているようです。ただ冒頭の1.9〜1.11節に、7段階の各項目が列挙されているので、それらが章に割り当てられていると考えて良さそうです。
- 第1章 身体に関するヨーガ説示・浄化法(カルマ)
- 第2章 アーサナ
- 第3章 ムドラー
- 第4章 プラティヤーハーラ
- 第5章 プラーナーヤーマ
- 第6章 ディヤーナ
- 第7章 サマーディ
アシュターンガ・ヨーガと比較すると、ヤマ・ニヤマが含まれておらず、ムドラーが入っていたり、4と5が逆だったりします。
ハタヨーガプラディーピカーと比較すると、シャットカルマが冒頭に来ていたり、プラーナーヤーマが後の方に来ていたりする点で異なります。
しかしムドラー・アーサナ・プラーナーヤーマの区別は曖昧なところが多いため、後ほど実際に内容をみていくことにしましょう。
じつはゲーランダサンヒターのプラーナーヤーマの章には、食生活のことなども書かれており、「呼吸法」としてだけではなく、気を整えるための「調気法」として様々な技法や生活の指針などが示されています。
アーサナの種類も、ハタヨーガプラディーピカーの約18種類(バリエーション含む)から32種類に増えており、現代ヨガでもおなじみの「木のポーズ」や「コブラのポーズ」なども出てきます。
(次)ゲーランダサンヒター概説1.1-1.11〜ヨーガの目的、サプターンガ・ヨーガ〜