ハタヨーガの古典の中で、最も体系化されているとして重要視されているハタヨーガプラディーピカー。
今回は、8つのプラーナーヤーマの種類と、バンダをどう組み合わせて使うかを示している部分を紹介します。
以下、日本語訳は「ヨーガ根本経典/佐保田鶴治」から引用しています。
プラーナーヤーマの讃美
2.39 梵天を初めとする神々も、死に対する恐怖から、調気法の修練に没頭したのである。それ故にわれわれは気を修練しなければならない。
2.40 気をカラダのなかに縛りつけられてある間、ココロが動揺しない間、視線がミケンにある間は、どうして死に対する恐怖があり得ようぞ。
神は死なないとされる考え方もありますが、インド哲学では神々も輪廻の途中であり、死んで生まれ変わるものであるとされることが多いです。
神ですらプラーナーヤーマを修練しているのであるから、われわれも真剣に実践するべきであり、それだけの価値のある実践であるということでしょう。
視線をミケンに向けて集中する行法は、後の章で紹介されます。
プラーナーヤーマの種類
2.44 クンバカには八種ある。スーリア・ベーダナ、ウジャーイー、シートカーリー、シータリー、バストリカー、ブラーマリー、ムールチャー、プラーヴィニー。
先に示されたように、クンバカは主に「止息」を表す言葉ですが、息を止める=気を止める(プラーナ:気、アーヤーマ:抑制・制御)ということで、クンバカとプラーナーヤーマはほぼ同じ意味の言葉として用いられています。
ハタヨーガプラディーピカーで示しているプラーナーヤーマは8種類です。他の教典ではこれら以外にも追加されていることがあり、これらが全てというわけではないようです。
私の記事でも紹介したものがいくつかでてきます。現代でも実践されているものが多いですが、古典で指示されている内容は不明瞭であり、やり方は少しずつバリエーションが加わりながら伝わっているようです。
プラーナーヤーマにおけるバンダの使い方
2.45 吸気がおわった時にジャーランダラというバンダをなし、クンバカが終って、呼息の始まる前にウディーヤナというバンダをなすべし。
2.46 下からの引きしめに直ぐつづけてクビの引きしめをなし、それから中部において背後への引きしめをなすならば、気は聖なる気道に入るであろう。
バンダ・トラヤ(3重のバンダ)と呼ばれる3つがここで出てきます。
「下からの引きしめ」はここでは名前が出てきませんが、ムーラバンダと呼ばれています。
- 肛門あるいは骨盤底:ムーラバンダ
- 腹部:ウディーヤナバンダ
- 首(喉):ジャーランダラバンダ
ウディーヤナの表記は、ウーディヤナと書かれたりウディヤーナと書かれたり、様々なようです。日本のヨガインストラクターの方は「ウーディヤナ」と読むこと多いように思えます。こちらの辞典(http://spokensanskrit.org)によると、 udīyateがto be risenの意味で載っているので(ウディーヤナは「飛翔する」などの意味)、ウディーヤナが正しい発音に近いのかと思われます。
現代のアシュタンガヨガで行われているような、アーサナとともに行われるウディーヤナバンダとは異なるという話は、以前の記事でも紹介しました。
2.45節で示されるウディーヤナのタイミングは、解釈が難しいものです。これが正しいのかどうかは分かりません。
サッチャナンダ氏の指示する方法などをみると(私もインドで実践していたやり方)、吸気のあとにウディーヤナを行うことはほとんど無いようでした。
アグニサルクリヤー・ナウリ・マハーバンダなどのように、息を完全に吐ききったあとにウディーヤナを行うということはよく行われます。
ただし、吐ききったあとに行う場合のウディーヤナは「引きしめ」というよりもかなり強力にお腹を引っ込める方法なので、ゆるやかに下腹部を引きしめる程度であれば、吸気のあとに行うのは有効かもしれません。
どのくらい、どのように引きしめるのかといった細かいことはここに書かれていないので、いかようにも解釈できてしまいます。むしろ人それぞれ異なるため、細かく書くことはできないのかもしれません。
ハタヨーガを文字だけで習得しようとする危険性は随所に潜んでいます。自分に合ったやり方をしっかり習ってから行うのが良いでしょう。
≫ハタヨーガプラディーピカー概説 2.48〜2.58 〜プラーナーヤーマのやり方・前半〜
≪ハタヨーガプラディーピカー概説 2.21〜2.38 〜シャットカルマ(6つの浄化法)とガジャ・カラニー〜
参考文献
「サンスクリット原典 翻訳・講読 ハタヨーガ・プラディーピカー」菅原誠 (著)
「Asana Pranayama Mudra Bandha 英語版」Swami Satyananda Saraswati (著)