ハタヨーガの重要な教典の中でもたくさんの技法が載っている、ゲーランダサンヒターを読んでいきます。
今回は、ムドラーの章の中でパンチャ・ダーラナー(5つの凝念)・ムドラーのやり方が書かれている部分を紹介します。
下記引用部分は、特に記載のない限り「ヨーガ根本教典 (続) /佐保田鶴治」を出典とします。
パンチャ・ダーラナー・ムドラーの説明
パンチャは「5つの」、ダーラナーは「集中・凝念」といった意味。ここまではアーサナやバンダや呼吸・気(プラーナ)などを扱ったムドラーが主でしたが、ここで初めて「心」あるいは「意識」といったものに関するムドラーが登場します。
ムドラー(印)は身体的な姿勢だけでなく、意識も一点に定めることで完成するということでしょう。
ヨーガスートラにおけるダーラナーは、アシュタンガヨーガの最後の3段階(サンヤマ)の中の1つ目として登場します。
参考:ヨーガスートラ解説 3.1-3.4 〜ダーラナ(集中)・ディヤーナ(瞑想)・サマーディ(三昧)〜
パールティヴィー・ダーラナー・ムドラー
3.70 地の実体は雄黄礦から造られ、土に属し、ラ文字がそなわっている。またヴェーダの血(梵天)をカマラ(青蓮華)の座にすえて、心臓にとどめるべし。
そして、気(プラーナ)を心といっしょに心臓内の地の実体へ導いて、五ガティカ(二時間半)の間そこに留めておくべし。このムドラーは人に安定をもたらし、常に大地の克服をなす(大地関係の災厄に会わない)。これがプリティビー・ダーラナーであり、一名アドー・ダーラナー(地上のダーラナ)という。
アーンバシー・ダーラナー・ムドラー
3.72 水の実体は貝殻や月の如くに清らかで、クンダの花の如く白く、まことに申し分なく清浄である。この甘露の種字なるヴァ文字をそなえ、常にヴィシュヌ神と結びつく。その気を心臓内の水の実体へ導いて心とともに五ガティカの間そこに留めおくべし。
これがアーンバシー・ダーラナー(水の観想)であって堪え難い熱悩や罪の汚れの破壊者となるであろう。
アーグネーイー(ヴァーイシュヴァーナラ)・ダーラナー・ムドラー
3.75 火の実体はヘソに存在し、インドラ・ゴーパ虫の如き色をして、ラが種字・形は三角、火より成り、輝き、赤褐色を帯び、ルドラを主神とする。人にシッディを与える。
この火の実体の所(ヘソ)に気を連れてきて、それらを心とともに五ガティカの間そこに留め置くべし。これがヴァーイシュヴァーナラ(火)のダーラナーである。
ヴァーヤヴィー・ダーラナー・ムドラー
3.77 風の実体は眼にさすび薬の粉末の盛られた如くどす黒く、サットヴァ・グナから成り、ヤの文字を種字とし、その主宰神はイーシュヴァラである。
気を心といっしょにこの実体の所に連れてきて、五ガティカの間そこに留め置くべし。これがヴァーヤヴィー・ダーラナーにして、この修行者は空中を歩くことができる。
アーカーシー・ダーラナー・ムドラー
3.80 この虚空の実体は海のすばらしく清らかな水の如く、澄みわたる天空の如く明かるく輝いている。種字としてハ字をそなえ、その主宰神はサダーシヴァ神である。気をそこに連れてきて、心とともに、五ガティカの間、そこに留め置くべし。このナボー・ダーラナー(天空の凝念)は解脱に通ずる門のとびらを打開するであろう。
パンチャ・ダーラナー・ムドラーに対応する5つの要素
5つのダーラナーは、様々な5つの要素に対応して説明されています。
- 五大元素:土・水・火・風・空
- 種字(ビージャマントラ):LAM・VAM・RAM・YAM・HAM
- 神々:ブラフマー・ヴィシュヌ・ルドラ・イーシュヴァラ・サダーシヴァ
種字(ビージャマントラ)は、チャクラ瞑想で一般的に用いられており、下から順番に第1チャクラ(LAM)〜第5チャクラ(HAM)に対応する種字がここに並んでいます。
しかしその集中する身体的な箇所としては、よく知られているチャクラの位置(たとえば第1チャクラは骨盤底、など)が示されているわけではなさそうです。
また、神々の名前も書かれていますが、ヒンドゥー教の三位一体であるブラフマー・ヴィシュヌ・シヴァ(ルドラはシヴァの別名)と並んでイーシュヴァラ、サダーシヴァという名前も出てきます。よく用いられる三位一体(創造・維持・破壊)の考え方以外にも、パンチャクリチャス(Panchakrityas・神の5つの聖なる行い)という分類もあり、この場合は創造・維持・破壊・迷妄・解放という5つを表すようです。
地球で生きている中では土(金属などの物質も)や水といったものがよく生活の中で感じ取られますが、世界が創られる過程ではこの五大元素の並びの逆で、まず虚空が在って、風(エネルギーの流れ)が起こり、火が起こり、水ができて、土ができたというように説明されます。そのため、一番身近な「土」から始まって最後に「空」について順番に観想できるようになっていくということは、自然の法則を知り、世界の真理を知るということにつながっていきます。
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