ハタヨーガの重要な教典の中でもたくさんの技法が載っている、ゲーランダサンヒターを読んでいきます。
今回は、ムドラーの章の中でアシュヴィニー・ムドラー、パーシニー・ムドラー、カーキー・ムドラー、マータンギー・ムドラー、ブジャンギニー・ムドラーのやり方と、この章の結びが書かれている部分を紹介します。
下記引用部分は、特に記載のない限り「ヨーガ根本教典 (続) /佐保田鶴治」を出典とします。
アシュヴィニー・ムドラー
3.82 肛門を、繰り返し、繰り返し、すぼめたり、開いたりすべし。これがアシュヴィニー・ムドラーであって、シァクティを覚醒させる働きをする。
アシュヴィニームドラーはムーラーダーラチャクラを目覚めさせる行のひとつとしてクンダリニーヨーガでも行われますが、肛門を締める筋肉をしっかり使えるようにしておくことは、老化を防ぐ意味でも重要です。
「老い」を示す指標として、たとえばピラティス氏は「背骨の柔軟性が失われること」を挙げていましたが、「肛門の筋肉が緩むこと」も注目するべき指標となっています。
ゲーランダサンヒターの中でも、「肛門部・直腸の病患を治す」というわかりやすい効果に加えて「若死にを防ぐ」という効果が示されています。
パーシニー・ムドラー
3.84 両足を、縄の如くにしっかりとからませて、クビのうしろに当てがうべし。これこそはパーシニー・ムドラーにして、シァクティを覚醒させる働きをする。
現代ヨガではパーシャーサナ(縄のポーズ)がありますが、このパーシニームドラーの形はドヴィパーダシルシャーサナのような脚を頭の後ろにもってくる形のようです。どのような体位で行うかの説明は書かれていないので、仰向けで行えばヨガニドラーサナ、うつ伏せで行えばスプタクルマーサナの形になりそうです。
「強健と栄養をもたらす」という効果が示されています。
カーキー・ムドラー
3.86 口をからすのくちばしの如くにとがらせて、空気をゆっくり、ゆっくり、吸いこむ。これがカーキー・ムドラーであって、すべての病気を治す。
サッチャナンダ氏や本山博氏の本にも載っているムドラーです。息の吸い方や保持の仕方によっていくつかバリエーションがあるようで、空気を胃の中に飲み込むように吸いこんで保持してから吐き出すというやり方もあるようです。
こちらもカーカーサナ(カラスのポーズ)というポーズがありますが、形はこのムドラーとは関係なさそうです。
「カラスの如く無病になる」という効果が示されています。カラスは健康だと思われていたのでしょうかね。
マータンギー・ムドラー
3.88 水中にクビまでつかって、両鼻から水を吸い、口から吐き出す。次に口から吸いこんで、両鼻から出すべし。その後、同じことを繰り返して行なうべし。これがマータンギーという高級なムドラーであって、老と死を無くする。
これはムドラーというより浄化法に近いような気がします。マタンガは「象」の意味で、鼻から水を吸う様子を象にたとえたのでしょう。
象のように強い力を得ることができるという効果が示されています。
ブジャンギニー・ムドラー
3.92 顔(または口)をいくらか前につき出して、空気を食道を通じて飲みこむべし。これがブジャンギニー・ムドラーであって、老と死を無くする。
上記のカーキームドラーのバリエーションで述べたやり方はこちらに近い気がします。
よく知られているブジャンガーサナがありますが、これも形は関係なさそうです。
蛇はクンダリニーと関係があるため重要なものとして扱われることが多いのですが、このムドラーの説明の中にはクンダリニーやシャクティの話は無く、消化器系の疾患を治すという効果が示されています。
ムドラー章の結び
数々のムドラーが示されてきましたが、当時恐れられていた様々な病患を治し、老化や死から逃れられるという効果が改めて最後に述べられています。
しかし、そのやり方は文字情報としては曖昧なものが多く、やり方はやはり師匠から直接教わるべし、そして教わったことは注意深く秘すべしということも改めて念を押されています。
ハタヨーガプラディーピカーと比較すると、ムドラーの数はかなり印象がありますが、依然としてハタヨーガの中心的な行法であるということは感じ取れます。
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