ハタヨーガの古典の中で、最も体系化されているとして重要視されているハタヨーガプラディーピカー。
今回は、8つのプラーナーヤーマのうち前半4つのやり方が示されている部分を紹介します。
以下、日本語訳は「ヨーガ根本経典/佐保田鶴治」から引用しています。
この記事の目次
スーリアベーダナ
2.48 行者は快適な座席の上でどれかの坐形を組み右の気道(スーリア気道)をもって、ゆっくりと体外の気を吸い込み、
2.49 毛髪とツメの先まで気がこもるまで保息し、それから、ゆっくりと左の気道(チャンドラ気道)をもって気を吐くべし。
現代ヨガでも行われている、スーリヤベダナ・スーリヤベーダ・太陽の呼吸法などと呼ばれているプラーナーヤーマです。
先に示されたナディショーダナは、左から吸う→右から吐く→右から吸う→左から吐く、という形でしたが、スーリヤベーダナは右から左への一方通行です。
右側はスーリヤ(太陽)あるいはピンガラーナディ、左側はチャンドラ(月)あるいはイダーナディと呼ばれる気道があるとされますが、ここでも明確に「鼻をふさぐ」というやり方が示されているわけではなく、ただ気道を意識して行うべしとだけ示されています。
基本的に太陽の側から気を取り入れると体を温めて活性化し、月の側から気を取り入れると体を冷やして鎮静化するという考え方があります。
よってその効果は、体を温め、活発にし、ヴァータをバランスすると言われます。
逆側のチャンドラベーダナも存在すると考える場合もありますが、これは行ってはならないとする場合が多いようで、多くの教典の中ではスーリヤベーダナだけが示されています。
ウジャーイー
2.51 口を閉じ、両方の鼻孔から気をゆっくりと飲みこみ、ノドから心臓に至るまでの気道にふれて音を立てるようにする。それからクンバカ(保息)して後、イダー気道(左の鼻孔)からイキを吐く。
アシュタンガヨガなどのヴィンヤサヨガで行われているウジャイ呼吸とは少し異なります。
特徴的なのは、クンバカしたあとに左鼻から吐くというやり方です。左から吐くということは、スーリヤベーダナと同じように体を温める意図が感じられます。
体を温め、咳をなくしたり、気道・体液・腹部、全ての体質(ドーシャ)等に存在する疾患を消し去るとされています。
鼻をふさぐ動作を除けば、歩きながらでも立ちながらでも行えるとされているので、私もたまに外を歩いているときに行ったりしています。音に集中するだけでも、姿勢が整い、雑念が消えていく感じがします。
シートカーリー(シータカーリー)
2.54 両唇の間に舌をあてて、シーという音を立ててイキを吸い、イキを吐く時には鼻を使う。これに習熟すると第二のカーマ・デーヴァ(愛の神)となる。
現代ヨガで行われているやり方とほぼ同じです。
暑い時に体を冷やすための呼吸法として用いられますが、ここではものすごい効果が示されて讃美されているようです。
2.55 彼は女道士の集団によってかしずかれ、創造と破壊の仕手となり、彼には飢も、渇も、眠りも、気だるさも起らない。
「愛の神になる」と言われたりしていますが、これらは解釈が分かれるようです。
「女道士の集団によってかしずかれ」の意味は、佐保田氏によればこれらは6つのチャクラのことかもしれないし、菅原誠氏は「シー」という音が性的な喜びを示し、異性の魅力を集めることができると解釈しています。
また2.56節では全ての災いがなくなり、ヨーガの王になれると述べられていて、とっても大げさに効果が示されています。
シータリー
2.57 舌を両唇の外に出し、それを巻いて、イキを吸い、クンバカをなし、両方の鼻孔から心静かにイキを吐く。
これも現代ヨガで行われているやり方とほぼ同じで、シートカーリーと同様に暑い時に体を冷やすための呼吸法として用いられます。
発熱・ピッタ由来の疾患・飢え・渇き・毒などにも効くと述べられています。
かなり大げさに示されていることが多く、どこまで本当なのかは分かりませんが、プラーナーヤーマには確かに効果も危険性もあり、心身を変えるために重要な行法です。現代ヨガにおいてはアーサナに比べて軽視されがちですが、真剣に取り組むことで確実に変化が現れてきます。
≫ハタヨーガプラディーピカー概説 2.59〜2.70 〜プラーナーヤーマのやり方・後半〜
≪ハタヨーガプラディーピカー概説 2.39〜2.47 〜プラーナーヤーマの種類・バンダの使い方〜
参考文献
「サンスクリット原典 翻訳・講読 ハタヨーガ・プラディーピカー」菅原誠 (著)
「Asana Pranayama Mudra Bandha 英語版」Swami Satyananda Saraswati (著)