ハタヨーガの重要な教典の中でもたくさんの技法が載っている、ゲーランダサンヒターを読んでいきます。
今回は、ムドラー(印)の一覧が書かれている部分を紹介して、ハタヨーガプラディーピカーのムドラーと比較してみます。
下記引用部分は、特に記載のない限り「ヨーガ根本教典 (続) /佐保田鶴治」を出典とします。
この記事の目次
21(25)種類のムドラー
3.1-3
一 マハー・ムドラー(Mahā-mudrā)
二 ナボー・ムドラー(Nabho-mudrā)
三 ウッディーヤーナー(Uddīyanā)
四 ジァーランダラ(Jalandhara)
五 ムーラバンダ(Mūlabandha)
六 マハーバンダ(Mahābandha)
七 マハーヴェーダ(Mahāvedha)
八 ケーチァリー(Khecarī)
九 ヴィパリータカリー(Viparītakarī)
一〇 ヨーニ(Yoni)
一一 ヴァジローニー(Vajroṇī)
一二 シァクティチァーラニー(Ṡakti-cīlanī)
一三 ターダーギー(Tāḍāgī)
一四 マーンドゥーキー(Māṇḍūkī)
一五 シァーンバヴィー(Ṡaṁbhavī)
一六 パンチァダーラナー(Pañcadhāraṇā)
一七 アシュヴィニー(Aśvinī)
一八 パーシニー(Pāśinī)
一九 カーキー(Kākī)
二〇 マータンギー(Mātaṅgī)
二一 ブジャンギニー(Bhujaṅginī)
現代ヨガにおけるムドラーは、ほとんど手でつくる印しか行われていませんが、本来のハタヨーガでは体全体を使ったムドラーがたくさん登場します。
ここでは21種類として佐保田氏は番号を振っていますが、16の「パンチャダーラナー」はパンチャ(5つ)のやり方を示しているので、合計で25種類と考えることもできます。
ダーラナーは8支則(アシュターンガヨーガ)にも入っており、「集中」などと訳される言葉です。特定の対象に心を集中をするわけですが、パンチャダーラナーは以下のように5大元素への集中を表します(カタカナ表記は佐保田氏のもの)。
- パールティヴィー・ダーラナー:地
- アーンバシー・ダーラナー:水
- アーグネーイー(ヴァーイシュヴァーナラ)・ダーラナー:火
- ヴァーヤヴィー・ダーラナー:風
- アーカーシー・ダーラナー:虚空
ハタヨーガプラディーピカーとの比較
ハタヨーガプラディーピカー第3章に示されているムドラーの一覧は下記の10種類です。
- マハー・ムドラー
- マハー・バンダ
- マハー・ヴェーダ
- ケーチャリー
- ウディーヤナ
- ムーラ・バンダ
- ジャーランダラ・バンダ
- ヴィパリータ・カラニー
- ヴァジローリー
- シャクティ・チャーラナ
参考:ハタヨーガプラディーピカー概説 3.6-3.9 〜10種のムドラー〜
また、この一覧には入っていませんが、ヴァジローリーに付随したものとして挙げられているものや、第4章に出てくるムドラーもあります。
- サハジョーリー
- アマローリー
- シャーンバヴィー
- ウンマニー
名前としては、ヴァジローリとヴァジローニーが微妙に異なりますが、ほとんどのムドラーはゲーランダサンヒターにも載っているように見えます。ただしゲーランサンヒターではヴァジローリーのやり方は大きく変わっており、サハジョーリーとアマローリーもありません。あとはウンマニーもなくなっているようです。
名前が同じでも、微妙な変化を含めればほとんどのムドラーはやり方が異なっているようですので、後ほど比較していきます。
追加されたムドラーは、下記の通りです。
- ナボー・ムドラー
- ヨーニ
- ターダーギー
- マーンドゥーキー
- パンチャダーラナー
- アシュヴィニー
- パーシニー
- カーキー
- マータンギー
- ブジャンギニー
ハタヨーガプラディーピカーの記事でも触れましたが、身体や呼吸を使ったものが多いムドラーのなかに「心を集中する」パンチャダーラナーが入ってきたというのがひとつの大きな変化かと思います。印を完成させるためには、心を一点に定める技法も重要ということでしょう。
ムドラーの効果
3.4 大神は神妃に向かっておおせられた。神妃よ、おんみの前で、わたしはムドラーを一括して説いたが、これを知っただけでも、シッディ(悉地、超能力)は生ずるのである。
向井田氏の訳には、佐保田氏の訳にある3.4-5節が抜けているようなので、底本が異なっているようです。
大神はマヘーシュヴァラ、すなわちハタヨーガを人々に伝えたといわれるシヴァ神のことですが、神妃パールヴァティーはシャクティなどと呼ばれ、ハタヨーガではムーラーダーラチャクラに眠っているクンダリニーのことを指すようになったようです(経緯については諸説あり、興味のある方は伊藤氏や成瀬氏の参考文献をみてみるのも良いでしょう)。シヴァは頭頂のサハスラーラチャクラにいて、クンダリニーがスシュムナー(中央のエネルギーライン)を登っていって頭頂で夫婦が出会う、という神話を実践するというのがハタヨーガの原理になっています。
ムドラーは超能力を生み出すというのはハタヨーガプラディーピカーとも共通するところです。ハタヨーガプラディーピカーではムドラーの章の冒頭で「クンダリニーを呼び覚ます」ということが書かれていますが、ゲーランダサンヒターではここで「クンダリニー」という言葉は用いず、シヴァと妃の話を出すことでそれを表現したのかもしれません。
このあと、各ムドラーのやり方の説明が始まっていきます。
(次)ゲーランダサンヒター概説3.6-3.24 〜ムドラー解説1〜
(前)ゲーランダサンヒター概説2.7-2.44 〜ハタヨーガプラディーピカーのアーサナとの比較〜