体を主に扱う、現代ヨガの元になった「ハタヨガ」。しかし元々のハタヨーガでは、ムドラーやプラーナーヤーマなどが奥義として扱われ、身体のエクササイズ的な現代ヨガとは異なる点も多いです。
ハタヨーガプラディーピカーとは、15〜17世紀ごろに編纂されたと言われる、ハタヨーガの理論と技法を体系的にまとめた重要な教典です。
現代のヨガポーズ(アーサナ)の多くは、この100年程度の間に作られたものが多いと言われていますが、では昔から行われているアーサナにはどんなものがあるのか。この記事では、ハタ・ヨーガ・プラディーピカーの概要とアーサナの一覧を示します。
ハタ・ヨーガ・プラディーピカーがハタヨーガ唯一の教典ではありませんので、その他の教典については以下の記事などで紹介しています。
日本語訳は、下記書籍から引用しました。
Amazon:ヨーガ根本教典/佐保田鶴治
ハタ・ヨーガ・プラディーピカーの概要
ハタ・ヨーガ・プラディーピカーは15〜17世紀ごろ、スヴァートマーラーマ氏によって編纂されたと言われています。(同じ内容の詩が他の教典などに見られるため、著作というよりは編纂されたものと捉えるのが一般的)。
プラディーピカーは灯火、ハタ・ヨーガ・プラディーピカーは「ハタ・ヨーガを照らす灯火」という意味です。編者自身はハタ・プラディーピカーと名付けていたという説もあります。
4章で構成されています。
- 第1章(67節) アーサナ
- 第2章(78節) プラーナーヤーマ
- 第3章(129節) ムドラー
- 第4章(114節) ラージャ・ヨーガ
ベースとしては、ヨーガ・スートラ(4〜5世紀ごろ)で示された8支則(アシュタンガ)を実践するラージャ・ヨーガに基づいていて、ハタ・ヨーガはラージャ・ヨーガに登るための階段であると述べられています。
4章の過程で記されているので、ヨーガ・スートラのアシュタンガヨーガに対して、チャトランガヨーガ(4階梯のヨーガ)と称される場合もあります。
≫ヨーガ・スートラとは 〜現代ヨガの重要教典のひとつ・瞑想の教科書〜
しかし、ハタ・ヨーガ・プラディーピカーで述べられているラージャ・ヨーガと、ヨーガ・スートラの示すヨーガは異なるとされる説もあります。
たしかにハタ・ヨーガ・プラディーピカーの第4章ラージャ・ヨーガで述べられている内容は、仏教など様々な教えを取り込もうとしている意図が見られます。
4章3〜4節「ラージャ・ヨーガ、三昧、ラヤ、ウンマニー、マノーマニー、不死性、真実在、空不空、至上の境地、無心地、不二、無所依、無垢、現世解脱、生得、第四境地などというのはすべて同義語である。」
第1章は、ヨーガ・スートラのアシュタンガにおいては第3段階である「アーサナ」で始まっており、8支則の第1段階のヤマ、第2段階のニヤマなど道徳的なことについては第1章の最初で簡潔に述べられています。
ヨーガ・スートラで5つずつだったヤマ・ニヤマは、他の教典などからの影響もあって10個ずつになっています。
≫ハタ・ヨーガ・プラディーピカーのヤマ
≫ハタ・ヨーガ・プラディーピカーのニヤマ
これら道徳的な土台や、ヨーガを行う環境などについて述べられたあと、早々にアーサナの解説が始まります。
ハタ・ヨーガ・プラディーピカーのアーサナ一覧
バリエーションが示されているものは数字を振ってあります。
- スヴァスティカーサナ
- ゴームカーサナ
- ヴィーラーサナ
- クールマーサナ
- クックターサナ
- ウッターナ・クールマーサナ
- ダヌラーサナ
- マツェンドラーサナ
- パスチモッターナーサナ
- マユラーサナ
- シャヴァーサナ
- シッダーサナ1・2
- パドマーサナ1・2・3
- シンハーサナ
- バドラーサナ
特に重要とされているのが下記の4つであり、
- シッダーサナ
- パドマーサナ
- シンハーサナ
- バドラーサナ
最も重要とされているのがシッダーサナで、その次にパドマーサナも重要としています。
ハタヨーガでは、アーサナの数は「生物と同じ8,400,000種類ある」とされていて、その中の84種類が重要であり、その中でも特に重要なものを各教典がそれぞれの観点から示しています。
ハタヨーガ・プラディーピカーでは、18種類(バリエーション含む)が示され、ゲーランダ・サンヒターでは32種類が示されています。
アーサナの分類・書かれ方の特徴
ハタヨーガが生まれるより前のヨーガ・スートラの時代では、「アーサナ」という語は主に「坐法・姿勢」としてのみ捉えられていましたが、ハタ・ヨーガ・プラディーピカーでは現代ヨガに見られるポーズもたくさん出てきます。
しかし現代ヨガで人気な「戦士のポーズ」のような「立位ポーズ」はひとつもなく、やはり「坐法」が多く、最重要とされているアーサナもまた坐法です。
アームバランスポーズが2つ(クックターサナ、マユラーサナ)、仰向けのポーズが2つ(ウッターナクールマーサナ、シャヴァーサナ)、その他は全て坐位のポーズです。
そして、もちろん写真などはなく、例えば下記のように言葉で簡潔に説明されていますが、解釈が難しいものや明らかに間違っていそうなものもあります。
1章19節「コムラ(腓)とフトモモの間に両方の足をしっかりとはさんで、カラダをまっ直ぐに立てて安坐する。これがスヴァスティカ(吉祥)体位である」
文字だけで判断して行うといろいろな解釈が生まれてしまい、誤った方向へ向かってしまう危険性もあります。
私もいくつかの訳本を読んでみましたが、かなり訳が異なっていて全然違うポーズになっているものもありました。
本来、ハタヨーガは「密教」的なものであり、師匠から直接やり方を行うべしとされています。信頼できる師匠に出会い、直接教わることで、危険性を避けながら正しい道を進んでいくことができるのでしょう。
「師匠の必要性」については、度々私も研究しています。以下の記事なども参考にしてみてください。
参考:「クンダリニー・タントラ」を読む【15】第1章 6節-1:クンダリニーヨーガの準備
次回、日本語訳の一例を紹介しながら、ハタ・ヨーガ・プラディーピカーで示されているアーサナと現代ヨガのアーサナの比較をしていきます。