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ハタヨーガプラディーピカー概説 3.10-3.31 〜「マハー(偉大な)」がつく3種のムドラー〜

ハタヨーガプラディーピカー概説 3.10-3.31 〜「マハー(偉大な)」がつく3種のムドラー〜

偉大なムドラー、詳しくはやはり師匠から教わるべし

ハタヨーガの古典の中で、最も体系化されているとして重要視されているハタヨーガプラディーピカー

今回は、「マハー(偉大な)」が名前の頭についている3つのムドラーが示されている部分を紹介します。また、サッチャナンダ氏が示しているやり方と比較してみます。

以下、日本語訳は「ヨーガ根本経典/佐保田鶴治」から引用しています。

この記事の目次

マハー・ムドラー

3.10 左足のカガトでもって会陰部(肛門)を圧迫し、右足を前にのばして、その足を両手でしっかりとにぎる。

3.11 そして、ノドのところでバンダをなし(ジャーランダラ・バンダ)、気を上に引き上げる(ムーラ・バンダ)。そうすると、あたかもむちでもって打たれた蛇が(とぐろを解いて)棒状になって立ち上がるように。

3.12 クンダリニーとよばれるシャクティ(人体内在の宇宙エネルギー)はすばやくまっ直ぐに伸び立つ。この時、二本の気道には、死の状態がくる。

3.13 それから、きわめてゆっくりとイキを吐く。決して粗暴に吐いてはならない。以上が、偉大なシッダ(大師)たちによって、マハー・ムドラーとして説き示されたものである。

10種のムドラーの中で最初に紹介されているマハー・ムドラー。

一方の足のカカトの上に骨盤底あるいは肛門をのせて座り、もう一方の脚は伸ばして、足先を両手でつかむ。

説明だけで比較すると、ジャーヌシルシャーサナBに近いような気がしますが、曲げている脚はこれとは異なり、足首を伸ばして正座のような形にするのが一般的なようです。

参考記事:ジャーヌシルシャーサナB

サッチャナンダ氏の本では、マハームドラーは視線を上向きにしている形で紹介されているので、これはジャーランダラバンダを行っていないようです。

マハーベーダムドラー(MAHA BHEDA MUDRA)として紹介されているものがジャーランダラバンダを行っているので、これが同じ形のようでした。

マハー・バンダ・ムドラー

3.19 左足のカガトを会陰部(肛門)にあてがう。右足を左股の上におく。

3.20 それから、イキを吸い込んだ後、アゴを心臓にしっかりとおしつけ、イキをひきしめ(ムーラ・バンダ)、ココロを中央のスシュムナー気道(或は眉間)に集中する。

3.21 できるだけ長くイキをとめてから、ゆっくりと吐く。左半身について行なった後、右半身についてなす。

半跏坐(アルダパドマーサナ)のような形で、下側の足のカカトは会陰または肛門にあてるようです。

現代ヨガで一般にマハーバンダというと、ムーラバンダ・ウディヤーナバンダ・ジャーランダラバンダの3つを同時に行うことを指すことが多く、また坐法もパドマーサナで行うことが多いです。

ハタヨーガプラディピカーで紹介されている方法は、ウディヤーナバンダを行っていないのと、息は吸い込んでから止めるというところで少し異なるようです。

サッチャナンダ氏の本の中では、「マハーバンダ」として「ムドラー」の章ではなく「バンダ」の章でこの方法が紹介されています。ハタヨーガプラディピカーのなかでも混在しているように、ムドラーとバンダの区別はかなり曖昧です。

サッチャナンダ氏は、シッダーサナでもパドマーサナでも可、息は吐ききってから、ジャーランダラ→ウディヤーナ→ムーラの順でバンダを締めて、息をできるだけ長く止めてから、ムーラ→ウディヤーナ→ジャーランダラの順でバンダを解いていく、というやり方で説明しています。

マハー・ヴェーダ・ムドラー

3.26 マハー・バンダ・ムドラーと同じ坐位をとり、精神を統一してイキを吸い、ノドのムドラー(ジャーランダラ・バンダ)をもって、諸気(五気)の上下する運行をとどめて不動にする。

3.27 両手をそろえて床につけ、カガトを会陰部につけた左足もろともシリを床から少しばかりもち上げ、そしてゆっくりと床に打ちつける。そうすると気は二つの気道(イダーとピンガラー)を去って、中央の通路(スシュムナー)へ勢いよく流れこむ。

ハタヨーガの技法の中では、カカトを会陰や肛門に当てるものが多く、第1チャクラ(ムーラーダーラ)あたりを「物理的に」刺激する意図が感じられます。パドマーサナをさしおいて、会陰を刺激するシッダーサナを最重要としているあたりにも現れています。

チャクラの刺激は物理的に行わずとも、意識の集中で十分であると考える場合もあるし、そもそもチャクラへ集中しなくても、心の働きをうまく整えれば自然とチャクラは目覚めるのだという考え方もあります。いろいろな行法と比べると、ハタヨーガはその名の通り「力づくで」行う技法が多いイメージがあります。

このマハーヴェーダムドラーも結構力づくな感じですが、「クンダリニーは、物理的な衝撃を与えるなどの方法で目覚めさせてはならない」という流派も多いため、ハタヨーガは批判を受けることも多いようです。

サッチャナンダ氏の本では、同じ名前MAHA VHEDA MUDRAとして紹介されていますが、坐法はパドマーサナを指定しています。

ハタヨーガプラディーピカーの方法ではカカトを会陰に当てたまま床に打ちつけているので、これよりはパドマーサナのほうが直接刺激をしないという意味では穏やかかもしれません。

アシュタンガヨガのウップルティヒのような形で、アゴをひいてジャーランダラバンダを締めて、床に3回ポンポンとお尻と腿裏を同時に打ちつけるという動きです。

参考記事:ウップルティヒ

英訳としてthe great piercing attitudeという名前がつけられていますが、ピアシング(ピアスの穴を開けるように突き通す)という語にも力づくでクンダリニーを目覚めさせようとする意図が現れているように思えます。

3ムドラーの効果

3.17 結核、レブラ、痔疾、疝痛、不消化等を初めとする疾患は、このマハー・ムドラーを修練する人にはなくなる。

3.30 この三つのムドラーは大きな秘儀であって、老と死を無くし、消化力を高め、身をちぢめて微小にするなどの八霊力をさずけてくれる。

「8つの霊力」というのはヨーガの書物の中でよく出てきますが、同じ本のヨーガスートラ部門の注釈から引用すると、以下のような8つであると言われます。

(1)身体を極限まで小さくして、岩石などを自由に通りぬける力、(2)身体を大空いっぱいになるほど大きくする力、(3)蓮の糸や綿くずよりも軽くなる力、(4)望みのままに、月にでも指をふれることができる力、(5)自分の意志するままに、どんなことがらでも実現できる力、(6)世界を創造し、支配する力、(7)万物を自分の意のままに従わせる力、(8)大地ほどに身を重くする力、あるいは、自分の意欲の対象を必ず手に入れる力

あいかわらずコンサルタントに怒られそうなMECE(漏れなく・ダブりなく)ではない8項目ですね、(5)があればなんでもできちゃうじゃん。

このようにスゴい効果があると言われているマハー(偉大な)ムドラー3種ですが、その詳しいやり方や頻度などは、「師匠から正しく教わるべし」とされ、「資格のない者には決して授けてはならない」と言われています。

やはりハタヨーガは密教であり、アーサナひとつを行うにしても先生からしっかり教わる必要があり、文字の情報だけで実践するのは避けなければならないということです。

(次)ハタヨーガプラディーピカー概説 3.32〜3.54 〜ケーチャリームドラーのやり方と重要性〜

(前)ハタヨーガプラディーピカー概説 3.6〜3.9 〜10種のムドラー〜

参考文献

「ヨーガ根本教典」佐保田 鶴治 (著)

「サンスクリット原典 翻訳・講読 ハタヨーガ・プラディーピカー」菅原誠 (著)

「Asana Pranayama Mudra Bandha 英語版」Swami Satyananda Saraswati (著)

男性ヨガインストラクター 高橋陽介の写真

by 高橋陽介

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