ハタヨーガの重要な教典の中でもたくさんの技法が載っている、ゲーランダサンヒターを読んでいきます。
今回は、ヨーガスートラが示していた8段階のヨーガ(アシュターンガ・ヨーガ)と比較される7段階のヨーガ(サプターンガ・ヨーガ)について書かれている冒頭部分を紹介します。
解脱やら輪廻やら、宗教っぽいことも出てきますが、ちなみに私はヨーガの信者でもないし何の信者でもないので、輪廻があるのかないのかはどっちでもいいと思っています。輪廻があろうがなかろうが、「今やるべきこと」は変わらないと思います。
下記引用部分は、特に記載のない限り「ヨーガ根本教典 (続) /佐保田鶴治」を出典とします。
この記事の目次
ゲーランダサンヒターのヨーガの目的
1.2 ヨーガの達人よ、真理の智恵の因となるところの、身体を基台とするヨーガを聞くことをわたしは今切に望んでおります。ヨーガの道に自在なる主よ、説き示したまえ。
ゲーランダ師に対して、弟子のチャーンダ・カーパーリが教えを請うという形で始まります。
ハタヨーガの文献にはよく「智慧(ニャーナまたはジュニャーナ) 」という言葉が出てきますが、ハタヨーガはウパニシャッドで示された不二一元論に基づいているとされていて、「ジュニャーナヨーガ(智慧のヨーガ)」はヨーガの4分類の一つとされています。
参考:ヨガの大分類(ジュニャーナ・バクティ・カルマ・ラージャ)〜体を動かすヨガ・それ以外のヨガ〜
1.4 世にマーヤー(幻術)にひとしいきずなは無く、ヨーガよりもすぐれた力は無い。また、智恵にまさる味方は無く、我慢心よりも強い敵は無い。
不二一元論は、宇宙意識(ブラフマン)と自分(アートマン)は一つであり、ただ一つ存在するのはブラフマンのみであり、私達が通常みている世界はすべてマーヤー(幻)であるという考え方です。佐保田氏は「きずな」という言葉を用いていますが、人を物質世界に執着させてしまうネガティブな意味での「きずな」と捉えられます。向井田氏は「人をとらえる罠」と訳しています。
この真理を悟ることがジュニャーナヨーガですが、それは他のヨーガとは異なりたった一歩の道ではあるが、その一歩がとても難しいのです。「我慢心(自我意識)」のような、邪魔するものがたくさんあるからです。
我慢心は「エゴ」などと訳されますが、ここではアハンカーラという語が用いられ、ヨーガスートラの中にも同様な言葉でアスミター(我想)が出てきますが微妙に異なり、アハンカーラがアスミターを生み出す、というように考えられています。
参考:ヨーガスートラ解説 2.1-2.3 〜5つの煩悩と3つの実践(クリヤー)〜
これらの邪魔するものをひとつひとつ取り除いていくことで、ヨーガの最終的な目的へ近づいていきます。
1.6 善行と悪行の結果として、生きとし生けるものの身体は生ずる。そして身体から業が生ずる。あたかも井戸のつるべ桶がこもごも上下するが如くである。
輪廻転生については様々な考え方がありますが、ヨーガでは輪廻が存在するという前提があり、ヨーガの目的は輪廻から脱する「解脱」であるとされます。
輪廻から脱するためには業(カルマ)を焼き尽くす必要がありますが、身体を持って生まれてくることをただただ繰り返していては、業を重ねていくことになり、いつまでも輪廻から抜けることはできません。
1.8 水につかっている、焼いていない土器のように、身体は絶えず老化してゆく。ヨーガの火で焼くことによって、身体の浄化を行なうべし。
解脱のための道は人それぞれであり、そのために様々なヨーガが生みだされました。
最終的には「真理の智慧」を「悟る」ことが必要になるということになりますが、そのためにゲーランダサンヒターでは「ガタスタヨーガ」あるいは「ガタヨーガ」というものを説いています。基本的には「ハタヨーガ」と同じものと考えられていますが、「ガタ(壷)を焼くように」してヨーガの火を用いて身体を浄化していくヨーガということのようです。
ハタヨーガプラディーピカーでも「ハタヨーガはラージャヨーガ(心のヨーガ)の階梯である」と示されていたように、入り口は身体の浄化といったところから始まって、最終的には精神的な浄化へとつながっていき、悟りへと至る道のりになっています。
7段階のヨーガ
1.9 身体に関する行法には七つある。(1)浄化法、(2)強壮法、(3)堅忍法、(4)安定法、(5)軽快法、(6)直観法、(7)離染法。
1.10-11 (1)浄化は六つの作法(カルマ)によって得られ、(2)強壮な体位法(アーサナ)によって、(3)堅忍法はムドラーによって、(4)精神の安定性は制感法(プラティアーハーラ)によって得られる。また、(5)調気法(プラーナーヤーマ)から軽快さが生じ、(6)静慮(ディアーナ)から真我(アートマン)に対する直観(プラティアクシャ)が生じ、そして、三昧(サマーディ)によって疑いなく離染状態すなわち解脱(ムクティ)境が現われる。
ゲーランダサンヒターが示す7段階のヨーガ(サプターンガ・ヨーガ)について述べられています。
- (1)浄化法:シャットカルマ
- (2)強壮法:アーサナ
- (3)堅忍法:ムドラー
- (4)安定法:プラティヤーハーラ
- (5)軽快法:プラーナーヤーマ
- (6)直観法:ディヤーナ
- (7)離染法:サマーディ
佐保田氏はすべてに「◯◯法」という名前をつけていますが、向井田氏は「浄化、強さ、安定、落ち着き、軽さ、気づき、見極め」と訳しています。
最終的な段階として「ムクティ(解脱)」が示されており、この状態にはヨーガスートラなどでも示された「サマーディ(三昧)」によって到るとされます。ただ、サマーディの分類や定義などは教典によって異なりますので、後々みていきましょう。
他のハタヨーガの重要教典であるハタヨーガプラディーピカーと比較すると、ハタヨーガプラディーピカーの内容は「アーサナ・プラーナーヤーマ・ムドラー・ラージャヨーガ」という4章で示されているため4段階のヨーガ(チャトラーンガ・ヨーガ)と呼ばれたりもします。
内容としては同じものが多いのですが、その順番やバリエーションが結構異なっています。たとえばゲーランダサンヒターで最初に示されている浄化法は、ハタヨーガプラディーピカーでは第2章に含まれています。
また、ヨーガスートラの8段階のヨーガ(アシュターンガ・ヨーガ)と比較すると、ヤマ・ニヤマがなく、プラティヤーハーラとプラーナーヤーマの順番が逆になっています。ハタヨーガプラディーピカーには第1章のなかにヤマ・ニヤマの記述があったのですが、ゲーランダサンヒターには書かれておらず、このあとすぐに身体の浄化法の話に入っていきます。
どれが唯一正しいということはなく、それぞれの著者は自分がしっくりくる内容・順番でまとめたのでしょう。
このあたりも比較しながら読み進めていくと、面白いかと思います。
(次)ゲーランダサンヒター概説1.12-1.44 〜シャットカルマ、ダウティ〜