ヨーガスートラを私なりに読み進めていくシリーズ。
英訳出典:http://yogasutrastudy.info/
サンスクリット語辞書:http://spokensanskrit.org/
訳者の略称は下記の通りです。
[SS]: Swami Satchidananda
[SV]: Swami Vivekananda
Sutra 2.1 クリヤーヨーガ(実践のヨーガ・行為のヨーガ)とは
तपःस्वाध्यायेश्वरप्रणिधानानि क्रियायोगः॥१॥
tapaḥ svādhyāy-eśvarapraṇidhānāni kriyā-yogaḥ ॥1॥
(読み)タパ スヴァーディヤーヤイーシュヴァラプラニダーナーニ クリヤーヨーガハ
(訳)苦行を浄化の助けとして受け入れること(タパス)・霊的な書物を研究し自己研鑽すること(スヴァーディヤーヤ)・宇宙意識に身を委ねること(イーシュヴァラ・プラニダーナ)が、「クリヤーヨーガ(実践のヨーガ)」の内容である。
[SS]: Accepting pain as help for purification, study of spiritual books, and surrender to the Supreme Being constitute Yoga in practice.
[SS訳]: 苦痛を浄化の助けとして受け入れること・霊的な書物を研究すること・至高の存在に身を委ねることが、「実践のヨーガ」の内容である。
[SV]: Mortification, study, and surrendering fruits of work to God are called Kriyâ-yoga.
[SV訳]: 苦行・研究・行為の結果を神に委ねることが、クリヤーヨーガと呼ばれるものである。
Sutra 2.2 クリヤーヨーガの効果
समाधिभावनार्थः क्लेशतनूकरणार्थश्च॥२॥
samādhi-bhāvana-arthaḥ kleśa tanū-karaṇa-arthaś-ca ॥2॥
(読み)サマーディ バーヴァナールタハ クレーシャ タヌーカラナールタシュチャ
(訳)これらは煩悩を最小化し、サマーディを達成する助けとなる。
[SS]: They help us minimize obstackes and attain samadhi.
[SS訳]: これらは障害を最小化し、サマーディを達成する助けとなる。
[SV]: (It is for) the practice of Samadhi and minimising the pain-bearing obstructions.
[SV訳]: これ(クリヤーヨーガ)は、サマーディのための実践と、苦痛を伴う障害を最小化するための実践である。
Sutra 2.3 5つの煩悩
अविद्यास्मितारागद्वेषाभिनिवेशाः क्लेशाः॥३॥
avidyā-asmitā-rāga-dveṣa-abhiniveśaḥ kleśāḥ ॥3॥
(読み)アヴィディヤースミターラーガドヴェーシャービニヴェーシャハ クレーシャハ
(訳)無知・我想(エゴ)・執着・嫌悪・生命欲が、5つの障害(煩悩)である。
[SS]: Ignorance, egoism, attachment, hatred, and clinging to bodily life are the five obstacles.
[SS訳]: 無知・エゴ・執着・嫌悪・肉体的な命に依存することが、5つの障害である。
[SV]: The pain-bearing obstructions are — ignorance, egoism, attachment, aversion and clinging to life.
[SV訳]: 苦痛を伴う障害は、無知・エゴ・執着・嫌悪・生命欲である。
解説・考察
ここで示される「クリヤーヨーガ」という名称は、パラマハンサ・ヨガナンダ氏などが提唱している流派としての意味とは異なり、以下の3つの実践を示しています。
- タパス(苦行・熱を加えて純化させること)
- スヴァーディヤーヤ(自己研鑽・聖典の研究・読誦)
- イーシュヴァラ・プラニダーナ(宇宙意識に身を委ねること)
タパス
タパスはいろいろな捉えられ方をするので、「とにかく苦行を重ねよ!」という解釈のもとに過激な修行をするヨーガもあるようです。
元々の意味としては、鉄を熱して叩いていくと不純物が出て精錬されていくように、「熱を加えて純化させる」というイメージです。
熱の加え方は人それぞれですが、無理して苦行をしようとしなくても良いのではないかと思います。
なにか避けようのない苦しいことがあったとき、「これは自分を純化するための過程なのだ」と割り切ることができれば、雑念を減らして集中力を高めることができる、というように捉えておくと良いかと思います。
もし避けられる障害ならば、避けましょう。
スヴァーディヤーヤ
svādhyāyaにもいろいろな意味があり、解釈が分かれるところです。
self-study、自己研鑽あるいは真我について学べと捉えられたり、聖典を研究せよと捉えられることもあります。
あるいは、聖典に記されたマントラ(真言)をただ唱えよ、とされることもあります。
イーシュヴァラ・プラニダーナ
1.23節からいくつかの節を割いて詳しく述べられてきた「イーシュヴァラ(宇宙意識)」に、身を委ねよということです。
これら3つは、アシュタンガ(8支則)の中の2つめ「ニヤマ」の5項目に含まれています。
以前の記事でも書きましたが、ニヤマは一貫して、「雑念を払い(不純物を手放して)集中していくための実践」のように思えます。
5つのクレーシャ(障害・煩悩)
ヨーガのゴールに至るまでに存在する5つの障害(煩悩)として、下記の5つが挙げられています。
- 無知
- 我想(エゴ)
- 執着
- 嫌悪
- 生命欲
なんだか似たような分類が何度か出てきているので混乱しそうですが、ひとまずそれぞれ関連付けようとせずに、心の作用には人それぞれに合わせていろんな「分別法」があるよ、と捉えておくと良いかと思います。
1.5-1.6節に出てくる5つの心の作用が特に似ていますが、1.5節では苦痛を伴うもの(煩悩性のもの)という言葉にkliṣṭaという語が使われ、2.2-2.3節では障害(煩悩)という意味でkleśaという語が使われ、微妙に異なる尺度で分類されているのかもしれません。
クリヤーヨーガ(実践のヨーガ・行為のヨーガ)は、これらの煩悩を払っていく助けとなると示されています。
このあとの節で、それぞれの煩悩について詳しく述べられていきます。
≪ヨーガスートラ解説 2.4-2.9
≪ヨーガスートラ解説 1.46-1.51