ヨーガスートラに代表される古典ヨーガ。体を主に扱うけれども現代ヨガとは異なる部分も多いハタヨーガやクンダリニーヨーガ。
いろいろなヨガやヨーガを扱ってきましたが、それでは現代ヨガというものは誰が始めたのか?
(ちなみに私のコラムの中では「ヨガ」は基本的に現代ヨガで行われているもの、「ヨーガ」は古典的なものを含めての行法として区別しています。YOGAの正式な発音としては「ヨーガ」が近いです。ここでは、「ヨーガマカランダ」の名称で統一しておきます。)
この記事の目次
現代ヨガの歴史を探る糸口
日本における「現代ヨガ」は、主にアイアンガー氏によって体系化されたアーサナが元になっていると思われます。
そして、「現代ヨガの父」と呼ばれているのが、アイアンガー氏の師匠であるクリシュナマチャリア(クリシュナマチャリヤ)氏です。
クリシュナマチャリア氏の弟子としては、アイアンガー氏と、アシュタンガヨガ(アシュタンガ・ヴィンヤサ・ヨガ)を確立したパタビジョイス氏が有名です。
アシュタンガヨガのアーサナと、アイアンガー氏の定義したアーサナには共通のものが多く、それらはクリシュナマチャリア氏によって伝承・考案されたものと推測されます。
現代ヨガの歴史を探っていくには、どうやらクリシュナマチャリア氏の教えを紐解いていくのがヒントになりそうです。
クリシュナマチャリア氏に関する日本語の資料はとても少ないですが、主著とされている「Yoga Makaranda(ヨガマカランダ、またはヨーガマカランダ)」は、英語版が公開されています。Makarandaは「花の蜜」などの意味で、Essence(真髄)という意味で用いられています。
ヨーガマカランダは、もともと1934年にカンナダ語で書かれ、1938年にタミル語に訳され、2006年に英語に訳されたものが出版されました。2011年には別の英語版が出版されています。
英語版にも2つの版があるようですが、2006年にLakshmi Ranganathan氏とNandini Ranganathan氏の訳した英語版がフリーで公開されているようなので、これを読んでいきながら、現代ヨガやアシュタンガヨガについて考察していこうと思います。
ヨーガマカランダの目次・構成
- 前書き・参考文献
- 1.序論
- 2.ヨーガーンガ(ヨーガの支則)の探求
- 3.ヨーガービヤーサ(ヨーガの実践)について
- 4.アーサナについて
ヨーガマカランダは上記のような構成になっています。
ざっと内容を紹介していきます。
前書き・参考文献
クリシュナマチャリア氏は、マイソール国王のKrishna Raja Wadiyar IVにヨーガ療法の力量を買われ、庇護を受けてヨーガの普及につとめました。前書きの中にも、王への敬意が示されています。
前書きの最後には、Yoga Makarandaを執筆するにあたり参考にしたとされる文献のリストがあります。
現代ヨガには5000年の歴史があるなどとよく言われますが、これが「つくりあげられた伝統」であると批判される原因のひとつが、この参考文献リストの中にあるようです。
クリシュナマチャリア氏が確立したと言われるヴィンヤサヨガは、数千年前の文献であるヨガコールンタ(Yoga Korunta)にすでに記されていたと主張されていますが、その文献はバナナの葉に書かれていて、アリに食べられてなくなってしまったと言われます。
またクリシュナマチャリア氏がとくに重要していたのが、ヨーガスートラとヨーガヤージュニャヴァルキヤ(Yoga Yajnavalkya)という教典であるとされていますが、このヨーガヤージュニャヴァルキヤの歴史もあいまいなようです。ヨーガヤージュニャヴァルキヤにはハタヨーガプラディーピカー(15〜17世紀ごろに成立したとされる)などにも見られるハタヨーガの技法がたくさん書かれています。
真実はいまのところわかりませんが、どうも歴史に関してはあやしいことだらけのようです。
以下の本などが現代ヨガの研究でよく引用されます。Wikipediaでもシングルトン氏らの批判と主張が要約されています。
参考:「ヨガ・ボディ: ポーズ練習の起源」マーク・シングルトン (著)
ひとまず、伝統があるかどうかは別として、クリシュナマチャリア氏がどのようなヨーガを伝えようとしたのかを見ていこうと思います。
1.序論
序論は「Why should Yogabhyasa be done?」という見出しから始まります。abhyasa(アビヤーサ)とはヨーガスートラやバガヴァッドギーターにも出てくる「修習」「常修」「修行」などの意味の語です。
参考:ヨーガスートラ解説 1.12-1.14 〜心を制御する2つの方法・修習と離欲〜
ヨーガをすると心身にどんな変化があるのか、どのように修行するべきか、どんな人がヨーガをするべきか、といったことが序論で語られています。
また、ナディ(気道)やチャクラに関する説明も述べられていて、ハタヨーガに基づいたヨーガが示されていることが感じられます。
参考:チャクラに関する研究まとめ1 〜ハタヨーガとチャクラ〜
その後、プラティヤーハーラ・ダーラナー・ディヤーナについて語られ、基本的にはアシュターンガ(8支則)に基づいたヨーガが展開されていくことが示されます。
参考:8支則について
2.ヨーガの支則に関する探求
ヨーガのアシュターンガ(8支則)に関する記述が1章・2章にわたって述べられています。2章では冒頭でヤマ・ニヤマについて語られ、修行を行う上での基本的な心構えなどが詳しく述べられています。
ここで示されるヤマ・ニヤマはヨーガスートラで示されている5項目ずつのものではなく、ハタヨーガプラディーピカーなどで示される10項目ずつのものが採用されています。
参考:ヨーガスートラが示す、第2支則「ニヤマ」を実践する意味
3.ヨーガの実践について
冒頭では、ヨーガの修行を行うのに適した環境や、食生活、推奨される行動・避けるべき行動などの具体的な注意事項が述べられます。
その後、ナディ(気道)やシャットカルマ(浄化法)、プラーナ・ヴァーユ(気の流れ)についての解説があります。
参考:ハタヨーガプラディーピカー概説 2.1〜2.6 〜プラーナーヤーマの目的〜
参考:ハタヨーガプラディーピカー概説 2.21〜2.38 〜シャットカルマ(6つの浄化法)とガジャ・カラニー〜
プラーナ・ヴァーユについての解説のあと、ムドラー(印)の解説があります。
この説明の流れは、ハタヨーガの古典とは少し異なるもので、ハタヨーガプラディーピカーやゲーランダサンヒターではアーサナが一通り解説されたあとにムドラーが示されていますが、ヨーガマカランダではムドラーが先に示されています。
ムドラーが先に示されている意図としては、ナディを浄化してプラーナをコントロールしクンダリニーを上昇させるというハタヨーガの目的を達成するためにはムドラーの実践が重要であり、アーサナは人それぞれ必要に応じて行うものであるという意図なのかもしれません。
4.アーサナについて
現代ヨガでもおなじみのアーサナの数々が、写真付きで示されています。現代ヨガの実践者にとっては、ここを見るだけでもとても参考になるでしょう。
注意深く見ていくと、微妙に現代ヨガと形が異なるものもあります。
弟子のアイアンガー氏・パタビジョイス氏がアレンジを加えたのでしょうか、一代にして結構なアレンジが加わってしまうヨガ、数千年の伝統とは一体?しかしおそらくそういった変化にも、何か意味があるのでしょう。
今後、各章の重要そうな部分について紹介していこうと思います。