ハタヨーガの古典の中で、最も体系化されているとして重要視されているハタヨーガプラディーピカー。
今回は、第3章「ムドラー(印)」の冒頭部分から紹介します。
以下、日本語訳は「ヨーガ根本経典/佐保田鶴治」から引用しています。
ハタヨーガ行法の要であるクンダリー(クンダリニー)
3.1 山や林のある大地のすべてを支えているものが蛇の主神アナンタであるように、すべてのヨーガ行法を維持しているものはクンダリーである。
第3章の冒頭では、ここまでの章でもたびたび示されてきた、ハタヨーガの目的・原理について再度示されます。
アナンタ(ananta)は「無限」「無辺」などの意味を表し、神話に出てくる蛇の神の名前でもあります。ハタヨーガにおける根幹となっているクンダリニーも「3回半とぐろを巻いた蛇」として描かれているように、インド人の話の中にはたくさんの蛇が出てきます。
インドには実際に蛇が多いらしく、日常でもよく見かけるようです。日本人が犬や猿などをことわざなどによく使うのと同じように、親しみのある存在なのでしょう。
蛇に関わる代表的なヨガのアーサナとしては、コブラ(ブジャンガーサナ)などがあります。
結節を破り、中央の気道を通す
3.2 グルのめぐみによって、眠っていたクンダリーが目覚めた時、その時にこそすべての蓮華と結節は突き破られる。
3.3 すると、障害物のなくなったスシュムナーはプラーナ(生気)にとって、通行に便利な王道(大道)になる。その時、チッタ(意識、心王)はその対象から解放され、時間(死)からの超越に成功する。
ハタヨーガの目的である、スシュムナー(中央気道)の浄化について、改めて示されています。
「蓮華」はスシュムナー上にある各チャクラを示しています。「結節(グランティ)」は、チャクラと同様にスシュムナー上に存在する3つの関所のようなもので、以下の3つが定義されます。
- ブラフマ・グランティ:骨盤底または尾骨
- ヴィシュヌ・グランティ:腹部または心臓
- ルドラ・グランティ:喉または眉間
チャクラとグランティは何が違うのか、というのは諸説あるようですが、チャクラはプラーナを体外とやりとりするための入り口のようなものであり、一般人においてはその働きが鈍っていることが多く、クンダリニーはチャクラを開く(回す・活発化させる)ことができるとされる説が有力なようです。それに対してグランティは文字通り関所のようなもので、クンダリニーが上昇していくためにはグランティを突き破る必要があるということでしょう。
チャクラに関してはまだまだ研究中ではありますが、一旦下記の記事にまとめてあります。
参考:チャクラに関する研究まとめ1 〜ハタヨーガとチャクラ〜
チッタ(意識、心王)については、ヨーガスートラで主に制御するべき対象として詳しく述べられています。
参考:ヨーガスートラ解説 4.4-4.6 〜瞑想から生まれるもの〜
チッタと「時間の流れ」の関係性についてはヨーガスートラでも論理的に述べられていますが、ハタヨーガプラディーピカーではズバっと「死を超越できます」と章の冒頭で効果を述べてしまって、読者を引きつけようとしているような感じにも思えます。
スシュムナーを浄化して、クンダリニーを上昇させるというハタヨーガの目的が改めて示されたわけですが、そのための重要な行法であるムドラーのやり方についてここから述べられていきます。
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参考文献
「サンスクリット原典 翻訳・講読 ハタヨーガ・プラディーピカー」菅原誠 (著)
「Asana Pranayama Mudra Bandha 英語版」Swami Satyananda Saraswati (著)