ハタヨーガの古典の中で、最も体系化されているとして重要視されているハタヨーガプラディーピカー。
今回は、ハタヨーガを極めた者が達すると言われるケーヴァラクンバカが示されている部分を紹介します。
以下、日本語訳は「ヨーガ根本経典/佐保田鶴治」から引用しています。
3段階のプラーナーヤーマ・2種類のクンバカ
2.71 調気には、レーチャカ(呼息)、プーラカ(吸息)、クンバカ(止息)の三種があるといわれ、そのなかのクンバカにはサヒタ(共同)とケーヴァラ(単独)の二種があるとされる。
2.72 ケーヴァラ・クンバカに成功するまでは、サヒタ・クンバカの修行を続けるべきである。ケーヴァラ・クンバカとはレーチャカもプーラカも捨てて気楽にイキを止めておくことである。
吸う・吐く・止めるという3つの呼吸の状態に関する名前が述べられています。
この章の冒頭から述べられているように、気の流れを止める(自在に制御する)ためには、クンバカ(止息)が最も重要です。
クンバカには2つの状態があると言われます。
- サヒタ・クンバカ:意図的な止息
- ケーヴァラ・クンバカ:自然に起こる止息
呼吸法としてのプラーナーヤーマの実践において、意図的に行われる止息はサヒタクンバカと呼ばれます。
ケーヴァラクンバカは、心が不動の状態になったときに自然に起こるものであり、ケーヴァラクンバカをやろう!と意図して行うものではありません。
瞑想の実践をしている方であれば、心が静まったときに自然と呼吸がゆっくりになって、次第に止まったような状態に近づいていくのを感じたことがあるかもしれません。
「ケーヴァラ」はヨーガスートラのゴールでもある独存(カイヴァリヤ)と同様な意味で、ラージャヨーガの境地に至った者にはケーヴァラクンバカが自然に訪れるとされます。
≫ヨーガスートラ解説 4.31-4.34 〜ヨーガのゴール〜
ハタヨーガの完成・ラージャヨーガへの道
2.73 ケーヴァラ・クンバカこそは真の調気であるといわれる。レーチャカもプーラカもなく、単純なクンバカに成功した時には。
2.74 三界において得られないものは一つもない。ケーヴァラ・クンバカをもって、任意にイキを止めることができるひとには。
2.75 ラージャ・ヨーガの段階に達する。このことは疑問の余地がない。クンバカによってクンダリニーが覚醒する。クンダリニーの覚醒によって。
2.76前半 スシュムナー気道の垢が取れ、ハタ・ヨーガの完成が実現する。
ハタヨーガの目的である、スシュムナー気道の浄化・クンダリニーの覚醒・ラージャヨーガに至る、というゴールが改めて示され、それはケーヴァラ・クンバカの成功と同時に起こるということです。
「三界」が指す世界は宗教によって様々な解釈があるようですが、仏教では「欲界・色界・無色界」を指し、つまりは輪廻しながら流転する世界であり、得るべきものはなにもなくなった→解脱に至ると捉えると良いと思います。
ハタヨーガの効果
2.78 ハタ・ヨーガに成功したというしるしは、(一)カラダがやせる、(二)顔色が冴えてくる、(三)例の妙音がはっきり聞こえる、(四)両眼に曇りがない、(五)無病、(六)ビンドゥ(精液)の克服、(七)消化力の旺盛、(八)気道がつまっていない、等である。
最後にとってつけたように、いろいろな具体的な効果が述べられています。
冒頭から述べられているようにハタヨーガは密教的なものであり、文字情報だけで実践するのは難しく、師匠に直接やり方を教わる必要があるものです。そのため、教えを広める立場の人がこの教典をまとめたのだとしたら、それなりに興味を引く「効果」を書き並べる必要があったのかもしれません。
ヨーガスートラにも、様々な超能力が書き並べられています。しかし「それらの効果に対して無執着になってこそ、修行は成功する」としてまとめられているのでマトモなイメージがします。
しかしハタヨーガの教典には、見た目がよくなるとか精力がUPするとか、わりと欲望に素直な感じの効果が並んでいることが多いです。
ヴィヴェーカーナンダ氏をはじめとして、「霊性の成長には無関係」としてハタヨーガを否定する人々が多いのもこのあたりが関係していそうです。
≫ヨーガスートラ解説 3.51-3.56 〜識別知を得て、独存に至る〜
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参考文献
「サンスクリット原典 翻訳・講読 ハタヨーガ・プラディーピカー」菅原誠 (著)
「Asana Pranayama Mudra Bandha 英語版」Swami Satyananda Saraswati (著)