この記事では、大腰筋をうまく使って前屈を深めるコツについて書いておきます。
以下の記事の続きです。大腰筋の概要については↓こちらにまとめてあります。
その他の筋肉についてざっとまとめたページは、機能解剖学事典のほうにありますので、そちらも参考にしてみてください。
ヨガの基本的な前屈ポーズ
「前屈」と聞くと、「立って行う前屈」と「座って行う前屈」が思い浮かぶ人が多いかと思います。
体育の体力測定でも、「立位体前屈」と「長座体前屈」を行って柔軟性をチェックすることがありますね。
ヨガのポーズにも、ヨガっぽい名前のついた前屈の基本ポーズがあります。
ウッターナーサナは「強く伸ばすポーズ」、パスチモッターナーサナは「西を強く伸ばすポーズ」というざっくりした名前がついています。
ヨガは「太陽礼拝」から始める場合は東に向かって行うので、「西」は背中や脚の後ろ側ということになります。
べつに前屈はヨガの専売特許でもないので、ヨガをしていない人でも前屈を練習している人はいるかと思いますが、アシュタンガヨガやシヴァナンダヨガといった主流なヨガの中にはこれらの基本ポーズがしっかり入っているので、ヨガのクラスを受けている人はほぼ必ず前屈を練習していることでしょう。
ただ、毎回やっているけれどなかなか深まらない、という人も多いかもしれません。
今回は、大腰筋に意識を向けることで前屈を深めるきっかけになればと思い、一連の大腰筋関連の記事を書いています。
大腰筋を使って前屈を深めるコツ
前屈の「目標」を間違えないように
よくある前屈の「間違えた目標」として、「顔を膝に近づける」という表現があります。
人によってはそれでもうまくいく場合もありますが、大抵の人は正しく前屈できた場合、顔はスネのあたりに近づいていくかと思います(めちゃくちゃ脚が長くて胴が短い人は別ですが…)。
膝に顔を近づけにいくと、背中は結構丸くしなくてはなりません。その場合、股関節はあまり動かずに背骨ばかりが動いてしまうことになります。
背中を丸くしようとし続けていると、ヘルニアにつながってしまうこともありますので、注意して修正しながら前屈を深めていく必要があります。
大腰筋の通り道をイメージすると、正しい前屈に近づける
正しく前屈を深めるために、もう一度大腰筋の通り道を確認して、これが使われる(縮む)ということをイメージしてみましょう。
前の記事でも説明しましたが、大腰筋は股関節を大きくまたいで、腰のあたりの背骨から→内ももの付け根までつながっています。
そして、結構「内側」にあるというイメージも大切かと思います。左右の意味でも、前後の意味でも、「内側」です。
また、背骨から始まっているということは、「中心」があるというイメージも役立つかもしれません。人間は2本の脚があるので、この「中心」という考え方を見失いがちです。
大腰筋が縮むと、「腰あたりにある背骨たちが一斉に、内ももに近づいていく」という動きが導かれることになります。
このイメージで行えば、背骨が過度に丸くなることはないかと思います。
大腰筋が使われるときにストレッチされる、反対側の筋肉の通り道も意識する
大腰筋が縮むとき、反対側の筋肉(拮抗筋)は伸びることになります。
主にそのときに伸びるのは、もも裏のハムストリングスとお尻の大殿筋です。ハムストリングスは、股関節と膝関節をまたいでいる長い筋肉ですが、主にお尻(坐骨)に近い部分が大腰筋と対応しています。膝に近いほうは、大腿四頭筋などと対応しています。
ウッターナーサナ(立位体前屈)やダウンドッグを練習しているときに「坐骨を上に向けて」とヨガの先生に指示されることがあると思いますが、それがピンとこない人も多いかと思います。このとき、大腰筋がうまく使えていないために、坐骨付近のハムストリングスが伸ばされていないという場合が多いです。
大腰筋の通り道をイメージしつつ、反対側の筋肉の通り道もイメージしてみましょう。
ハムストリングスは「坐骨から始まって膝の下までつながっている」、という通り道をイメージできると、坐骨の動きが改善していくかもしれません。
ハムストリングスは、以下のような大腿二頭筋・半腱様筋・半膜様筋といった筋肉をまとめた総称です。これらの筋肉はほとんど一緒に働くようにみえますが、太もも裏の「内側と外側」を通っているということはイメージしておくと良いかもしれません。内側だけ固い・外側だけ固い、という人も多いようです。
動かない部分と、動く部分を意識する
立位でも坐位でも、前屈するときに動かないのは「脚」で、動くのは「脚より上の部分(骨盤から上)」です。
目的の部分をしっかり動かすためには、動かない部分をしっかり安定させておくことが重要です。たとえば何かを手で持って折り曲げるとき、まず両端をしっかり掴んでいないとうまくいきませんね。
立位前屈の脚の安定
立位の場合は特に脚が不安定になりやすいので、足の指を一度上げてアーチを作って強く立つ足をつくり、内ももとお尻を少ししめて安定させる、つまり基本の立ち姿勢をしっかり作ってから前屈を行うと良いでしょう。
坐位前屈の脚の安定
坐位の場合も、基本の座り姿勢であるダンダーサナ(長座)をつくってから行うと良いですが、意外とこの長座が、大腰筋をしっかり使えてないとできないポーズでもあります。
脚を伸ばすと骨盤が後ろに倒れてしまうようであれば、ひとまず膝を曲げても良いので、骨盤を前に倒せるような状態から練習しましょう。
ただその場合も、脚は地面に安定させておく必要があります。かかとを軽く地面におしつけるようにして安定させると、うまくいくことがあります。
これは少し矛盾するようですが、かかとを持ち上げようとしたほうが実は前屈の動きには近くなります。実際は持ち上がらないので、逆に上半身のほうが脚へ近づいていくことになり、これも大腰筋を使っていることになります。真逆の表現になりますが、どちらの表現が適しているかは人によっても異なりますし前屈の進行度によっても異なるので、自分のしっくりくるやり方を探していろいろ試してみると良いかと思います。
日頃から大腰筋を使って姿勢改善
なぜ現代人は大腰筋を忘れがちになるかというと、椅子に座ってパソコンを使っている時間が長いことが原因のひとつのように思えます。
椅子に座って前方のモニターを眺めていると、だんだん顔が前に出て、代わりに背中は後ろに丸くなっていきます。猫背の完成です。
猫背で椅子に座っていると、ほとんど大腰筋を使わずに日常を過ごせてしまいます。
大腰筋を意識することで姿勢改善にもつながります。意識するためには、通り道をイメージするのが良いかと思います。
大腰筋に意識が通っていると、太ももの内側と腰の背骨たちが適度に近づき、骨盤は垂直に保てるようになります。過剰に力をいれる必要はありません。ただ意識するだけでも十分です。
このとき、ただ骨盤を立てようとか前に倒そうとだけ意識すると、腰が過度に反ってしまうこともあり、その際は大腰筋ではなく背中の筋肉が使われてしまって、腰痛になってしまうこともあります。無理のある姿勢は長続きしないので、違和感があるようであれば何かが間違っています。
なかなか言葉で表現するのは難しいですが、注意深く自分の姿勢を観察して、違和感を探してみてください。
大腰筋が姿勢改善のきっかけになる場合もあれば、「アゴを軽く引く」「頭を上から吊るすイメージをする」といったアクションもきっかけになりえます。自分に合った姿勢改善のトリガーを持っておくと良いかと思います。