現存するハタヨーガの三大教典のひとつ、シヴァサンヒターの概説です。
今回は第5章、四種のヨーガ・四種の修行者に関する部分を読んでいきます。
以下引用部分は基本的に以下書籍の佐保田鶴治氏の訳を用い、必要に応じてヴァス氏・マリンソン氏の訳と比較しながら進めていきます。
四種のヨーガ
5.17節「マントラ・ヨーガとハタ・ヨーガ、第三にラヤ・ヨーガ、第四にはラージァ・ヨーガ。これらのヨーガはさらに二分することはできない。」
ここで以下4種のヨーガを挙げて、それぞれどんな修行者に適しているかという説明が始まります。
- マントラヨーガ
- ハタヨーガ
- ラヤヨーガ
- ラージャヨーガ
二元性に関する一文
最後の文は、佐保田氏は「これらをさらに二分することはできない」と訳していますが、マリンソン訳とヴァス訳ではduality(二元性)という言葉が使われています。
ヴァス訳では「二元性を手放す」、マリンソン訳では「二元性から解放される」、というように英訳されています。二元性を離れるということは、不二一元のブラフマンへ還るということを意味するようにも捉えられますが、少し不明瞭なところです。
各ヨーガに関して
ここでは各ヨーガについての詳細な説明はありません。
特に、ラヤヨーガについては何を意味しているのか、ここでは判断できないため、シヴァサンヒター全体や他の教典などと比較しながら考察する必要があるようです。「ラヤ Laya」という言葉自体は「消滅」「没入」といった意味で、自己の消滅と至高の意識との一体化などを表す言葉です。ラヤヨーガの行法としては様々な定義があるようで、瞑想を主とするという道もあれば、ハタヨーガのムドラーやプラーナーヤーマを用いるとされる場合もあり、一般的にはクンダリニーヨーガと同義なものと扱われたりすることもあります。
以下の各修行者に適したヨーガとしてラヤヨーガは下から2番目の中級行者に適していると説明されており、その後の上級行者にはラヤヨーガの経験があるという特徴が含まれているため、ラヤヨーガはハタヨーガの前段階に行なわれるヨーガとして区別されているようです。ただ、具体的な違いはここで明確に説明されているわけではないようでした。
この第5章の中では、ラージャヨーガなどについても説明されているので、ひとまずそのあたりを読み進めてから、各ヨーガの詳細について考察していこうと思います。
四種の修行者
5.18節「ヨーガ修行者には軟弱級、中級、上級、極上級の四種があることを知るべし。極上級の秀れた行者は世界の大海を渡るに堪える人である。」
佐保田訳では「軟弱級・中級・上級・極上級」、ヴァス訳では「mild, moderate, ardent and the most ardent」、マリンソン訳では「weak, middling, good, and outstanding」となっています。「軟弱級」はちょっとかわいそうな表現ですが。
それぞれの特徴が細かく述べられ、それぞれに合ったヨーガが示されています。
軟弱級行者の特徴と適したヨーガ
軟弱級行者の特徴は、以下のようなものが挙げられています。
- 野心が少ない
- 愚昧
- 病弱
- グルを軽んじる
- 貪欲
- 量見が悪い
- 大食漢
- 細君に頼っている
- 気分屋
- 臆病
- 病人
- 他人頼り
- 残忍
- 善行に欠ける
- 精進が足りない
なかなかひどい言われようですね。こんな人はそもそも行者と呼んでいいのかどうか。
このような軟弱級行者は、12年かかってようやくシッディを得ると言われ、グルはマントラヨーガを授けるのに適していると説明されています。
中級行者の特徴と適したヨーガ
中級行者の特徴は、以下のようなものが挙げられています。
- 寛容な心
- 忍耐強い
- 積善を志す
- やさしい言葉使い
- どんな結果に対しても疑いなく平静
グルは中級行者にはラヤヨーガを授けるのが適当であると説明されています。
佐保田訳には年数の記述はありませんが、マリンソン訳では8年でヨーガが成ると書かれています。
上級行者の特徴と適したヨーガ
上級行者の特徴は、以下のようなものが挙げられています。
- 堅忍な精神
- ラヤヨーガの経験がある
- 独立心に富む
- 勇気がある
- 度量が大きい
- 憐れみの心が深い
- 忍耐心がある
- 正直
- 剛勇
- 少壮
- 信仰がある
- グルの足を拝する
- ヨーガの修習を楽しむ
このような上級行者は6年でシッディを得ると言われ、グルはハタヨーガの全てを授けるべきであると説明されています。
極上級行者の特徴と適したヨーガ
極上級行者の特徴は、以下のようなものが挙げられています。
- 精力絶倫な野心家
- 人間的魅力がある
- 勇敢
- 教典に通じている
- 修習を心がける
- 盲目的情動がない
- 容易に動じない
- いつまでも生新な若さを保つ
- 常に節食する
- 感官を支配する
- 恐れる心がない
- 清潔
- 怜悧
- 慈善を行う
- すべての人に頼られる
- 有能
- 剛毅
- 賢明
- こだわりが無い
- 辛抱強い
- 気立てがよい
- 敬虔
- 自分の努力を秘す
- 言葉やさしい
- 聖典を信じる
- 神々とグルに仕える
- 人間の集会に興味を持たない
- 恐ろしい疾患を持たない
- 極上級行者の戒律を知る
- あらゆるヨーガを行ずる
このような極上級行者は3年でシッディを得ると言われ、あらゆるヨーガの適格者であると説明されています。
ここまでざっと行者の種類とヨーガの種類が説明されてきました。
第5章は「雑録」という感じなので、このあと急に観想法などの行法の説明が始まります。
次記事:(執筆中)
前記事:シヴァサンヒター概説【13】5.1-5.16 ヨーガを妨げるもの