ヨガのレッスンでよく唱えられているマントラ(真言)について、少し私の経験や考え方について書いておきます。
私の基本的な今の考え方としては、マントラについてはまだまだわからないことも多いけれども、とても強い力があり心身に大きな影響を与えるということは感じたので、うかつに扱うべきではないなというスタンスです。
もしマントラを唱える機会があったら、注意深く意味を考え、慎重に効果を感じ取るようにしましょう。
用語辞典:マントラ
マントラ(真言)の例
一般的なヨガのレッスンで唱えられているマントラとしては、まずOM(オーム)があるでしょう。OMだけを唱えることもありますし、ほとんどのマントラの頭にもついています。日本の仏教における真言では、「唵(オン)」という音で用いられることが多いです。
一連の句になっているマントラで、よく唱えられているものとしてはシャンティマントラやガヤトリーマントラなどがあるかと思います。
シャンティマントラと呼ばれるものも多数あり、私がインストラクターの資格を取るときに習ったのはサハナーヴァヴァトゥのマントラでした。
アシュタンガヨガやシヴァナンダヨガには、オープニングのマントラ(あるいはシュローカ)とクロージングのマントラがあります。
参考:アシュタンガヨガのマントラとアーサナ順番
参考:シヴァナンダヨガのマントラとアーサナ順番
ヨーガと同じ起源から日本に伝わったマントラ(真言)としては、真言宗で唱えられている以下の光明真言などがあります。私も法事で唱える機会がありましたが、リズミカルで気持ち良いものでした。
oṃ amogha vairocana
オーン 不空なる御方よ 毘盧遮那仏(大日如来)よ
オン アボキャ ベイロシャノウ
唵 阿謨伽 尾盧左曩mahāmudrā maṇi padma
偉大なる印を有する御方よ 宝珠よ 蓮華よ
マカボダラ マニ ハンドマ
摩訶母捺囉 麼抳 鉢納麼jvāla pravarttaya hūṃ
光明を 放ち給え フーン(聖音)
ジンバラ ハラバリタヤ ウン
入嚩攞 鉢囉韈哆野 吽Wikipedia contributors. “光明真言.” Wikipedia. Wikipedia, 5 Jul. 2022. Web. 21 Oct. 2022.
正しいマントラとは?
マントラを扱う場合、この「正しく唱える」というのが重要なところです。発音・音程・長さ(リズム)などを少しでも変えると、別の効果に変わります。
ヨーガのマントラはサンスクリット語ですが、たとえばアaとアーāは別の文字であり、そこが変わってしまうと別の言葉になります。
さらにサンスクリット語は、ひとつの言葉でも文脈によって様々な意味で用いられるため、解読するのがとても難しい言語です。
「伝統的な」唱え方を学ぶには、口伝で師匠から伝え聴いてきたインドの僧侶の方に直接習うのが一番ですが、どうもインドの先生の間でも唱える音程が異なっているものがありました。
では何をもって正しいと判断するのか?
確かなのは、唱えると必ず変化が起こるということです。正しい唱え方をすれば正しい変化が現れますし、間違った唱え方をすれば別の変化が現れるでしょう。
音に出して唱えても、音に出さずに頭の中で唱えても、どちらも全く何も起こらないということはありません。
たとえば各チャクラには音の高さ(共鳴する周波数)やビージャマントラの一字が割り当てられていたりしますが、実際に真剣に唱えてみれば、チャクラがある場所あたりに気持ち良い共鳴を感じるはずです(用語辞典:ビージャ)。
マントラの効果に関する科学的考察
マントラにはなぜ効果があるのか、少し科学的な視点で理由を考察してみます。単なるおまじないや、あやしい儀式的なものとだけ思い込んでいると、その効果を見誤ることになります(もちろんおまじないや儀式にも、大きな意味があります)。
固有振動数による共鳴
ものにはすべて固有振動数があり、その振動数の音を鳴らすと共鳴し、振動し始めます。
この原理を利用すると、適切な「高さ」の音を鳴らすことによって、特定の身体の箇所や場の空気や近くに置かれている物などが共鳴することは考えられます。
共鳴・共振することによって、筋肉がゆるんだり、脳の特定の場所が活性化したりするといったことは起こり得るかと思います。
この原理は、シンギングボウル・クリスタルボウルなどの音がチャクラの活性化につながるという可能性も示しているかと思います。倍音成分を多く含む音が、よりチャクラの活性化につながると言われています。
おそらく、モンゴル人のホーミーのような発声も、脳の特定の部分に影響を及ぼしている気がしています。
イメージによる体験
では、声を出さずにマントラを唱えるアジャパジャパの場合はなぜ効果があるのか。
人間は観想(イメージ)することによって、そのイメージが詳細であればあるほど、そのイメージと同じ体験をしたかのように脳が働くと言われます。
これはネガティブな効果ももちろんあるので、うまく活用する必要があります。過去にあったいやなことや、未来にありそうな不安なことを考え続けると、それを体験し続けているのと同じストレスがかかります。これは体験したことがある人も多いかと思います。
この原理から考えると、声を出さずとも、それを唱えているイメージをすることは、その体験と同程度の効果が得られるとも考えられます。
アジャパジャパは、訓練すればずっと生活の中でそのマントラが鳴っているようにイメージすることもでき、常にそのマントラの効果と共にあることもできる可能性があります。
バジャン・キールタンとマントラ
音楽をつけて、楽器を鳴らしながらマントラのような繰り返しの文言を唱える「バジャン」や「キールタン」といったものがあります。
バジャンはリズミカルに楽器を鳴らしながらみんなでわいわい歌うイメージ、キールタンはハルモニウムなどの楽器を弾きながら一人か少人数で歌うようなイメージであることが多いようですが、そうでもない場合もあり、マントラ・バジャン・キールタンという言葉そのものはそれぞれ定義が微妙に異なる場合があるようなので一概に説明できませんが、そういったものがインドにはあって、生活のなかで行われているということは知っておいても良いかと思います。
私もインドの生活の中で、バジャンによく参加していました。ハーレー ラーマーとかハーレー クリシュナーなど神の名前や賛美の言葉などを繰り返し唱えながらリズミカルに歌っていました。先生たちは真顔でタンバリン叩いてます。
マントラの意味を考える
発音・音程・長さ(リズム)も重要ですが、言葉としての意味も考えてみた上で唱えるのが良いでしょう。
よくヨガスタジオで唱えられているマントラはサンスクリット語の「句」になっているので、しっかり意味があるように思えます。ただサンスクリット語は、文脈によって多様な解釈をされるので、気をつけて読まねばなりません。ヨーガスートラなどの文献も翻訳者によって様々な解説がなされています。
先生のマネをして唱えてみていたら、じつはとんでもない意味のマントラを唱えさせられていたということもありうるので、慎重に意味を考える必要があるでしょう。
これはマントラに限らず、現代で用いられている言葉などにも言えることです。安易にコトバを用いず、その意味や効果を考えた上で発する注意深さが必要です。
句になっているマントラのほかにも、OMやビージャマントラのように、「言葉」というよりはただの「音」のように思えるマントラもあります。
ではこのような「音」に意味があるのか?と思うかもしれませんが、これらも立派なコトバであり、しっかり意味があるのだと思います。
一字・一音に意味を込めるというのは、日本語の特徴でもあり日本人にとってはむしろ古来から馴染みのあることのようです。
ヲシテ文献・言霊といったことに関する情報などを調べると、50音の一音ごとにも意味があるということがわかります。お子さんの名前を考えるときなども、そういった音の意味を込めてみるのも良いかと思います。
OMの発音を構成するA・U・Mおよび「無音」も含めた4つの過程にも意味があると言われます。
用語辞典:オーム OM
ちなみに一字・一音を用いるマントラとしては、サマエル・アウン・ベオール氏も、眉間のチャクラに「I(イ)」を用いたりなど、独自のマントラを使っていたようです。私もしばらく試してみましたが、とても効果があるように感じました。
彼の考えによれば、たとえば「エジプト EGIPTO」や「ファラオ FARAON」といった言葉も、マントラとして唱えるとそれぞれ効果があるといいます。神話に出てくる女神「イシス ISIS」の名前は、Iは先程の眉間のチャクラに関係するマントラで、Sはクンダリーニを呼び覚ます(蛇の声のような)音であるため、ISISを正しく唱えることはクンダリーニ行にも用いられるマントラとなる可能性があるということです。
そう考えると、すべての人や物や場所などの名前は、マントラになりうるのかもしれませんね。
ヨガのレッスンでマントラを用いるかどうか
一般的なヨガスタジオのレッスンでは、OMやシャンティマントラの中の一つを唱えるところが多いかもしれません。
アシュタンガヨガやシヴァナンダヨガのレッスンでも、それなりに長いマントラですが、ちゃんと時間をとって唱えている先生も多いかと思います。
ただ、私はマントラには確かな力があると思うが故に、やはり「その人にとって良い効果のあるマントラ」を唱えてほしいと思うので、個別にしっかり教えることが難しいオープンクラスのレッスンではマントラを唱えないようにしています。
マントラについてしっかり学びたい方には、プライベートクラスで個別にお教えするようにしています。
その時々に最適な、コトバの力を用いる
ヨーガで最も重要とされるOMのマントラは、例の新興宗教のせいで日本ではとても印象の悪いものになってしまいました。もちろんOMのマントラには大きな力があると思いますが、悪いイメージが沸き起こってしまうようであれば、現代日本人はあえて無理して唱えずとも、他のマントラを試してみるのも良いでしょう。
時が経てば、その悪いイメージも消えるかもしれません。このようにコトバの持つイメージや力は、変化していく部分もあるのかもしれませんし、人それぞれにとって重要な響きというものも異なるのだと思います。
今の自分にとって良い響きであると感じるマントラが見つかったら、しばらく唱えてみると良いと思います。
たくさんの知識を得ようとするよりも、たくさんエクササイズするよりも、たった一音のマントラを唱えることが、心身の健康につながるかもしれません。