ハタヨーガの重要な教典の中でもたくさんの技法が載っている、ゲーランダサンヒターを読んでいきます。
今回は、ムドラーの章の中でケーチャリー・ムドラー、ヴィパリータカリー・ムドラー、ヨーニ・ムドラー、ヴァジローニー・ムドラーのやり方が書かれている部分を紹介します。
下記引用部分は、特に記載のない限り「ヨーガ根本教典 (続) /佐保田鶴治」を出典とします。
ケーチャリー・ムドラー
3.25 舌の下にある筋(舌下小体)を切り放ち、舌を絶えず動かし、新鮮なバターを塗っておいて舌をしぼり(もむ)、鉄の道具で舌を引き出すべし。
3.26 かようなことを絶えず繰り返すと、舌は次第に長くなり、終には眉間に達する。その時ケーチァリーは成功する。
3.27 それから、舌をゆっくりと上アゴのまん中へ入れてゆく。逆行していった舌は終に頭蓋の孔(鼻孔が口腔に開いている個処)に入りこむ。その時視線を眉間にそそぐ。これでケーチァリーはでき上がったのである。
舌をだんだん長く伸ばしていって、喉の奥へ入れて鼻腔の方へ伸ばしていくというケーチャリームドラー。ハタヨーガプラディーピカーのほうがやり方や効果については細かく書かれているようですが、ほとんどやり方は同じのようです。
なんでこんなワザをするのかというと、ハタヨーガにおける「老い」の原理として、頭の中にある「月」と呼ばれる部分から下に向かって不老不死の甘露(ソーマ)が流れていて、ヘソの下にある「太陽」でそれが消費されることによって人は老いていくという考え方があるため、そのソーマを舌で受け止めるためにケーチャリームドラーや下記のヴィパリータカリームドラーのような逆転ポーズを行うということです。
ヴィパリータカリー・ムドラー
3.33 太陽はヘソの下に在り、月は上アゴの舌に在る。太陽は月から流れ出る甘露(不老不死の薬液)を毎日飲んでしまう。それゆえに人間は死神に支配されるのである。
3.35 床上に頭を置き、両手で体を支え、足を上にして不動に保つ。これがヴィパリータ(逆転)とよばれるものである。
ハタヨーガプラディーピカーではさかさまになるということだけ述べられていますが、ゲーランダサンヒターでは少し具体的にやり方が示されています。
現代ヨガでも行われているヴィパリータカラニーに近い形のようです。
「カラニー」と「カリー」という語については、微妙な意味の違いはありますが、どちらも「仕草」「行い」などの意味があり、どちらも「逆転の姿勢」と捉えてよさそうです。
ヨーニ・ムドラー
3.37 シッダ・アーサナの坐位を組み、耳と目と鼻と口を、それぞれ親指、人差し指、中指、無名指などを以て閉じるべし。
3.38 カーキー・ムドラーの仕方でプラーナ気を充分に吸いこんで、それをアパーナ気につなぐべし。そして賢者はフムとハンサを心で唱えながら六つのチャクラを順々に思念して、
3.39 深く眠りこんでいる蛇神の女神を目覚めさせ、そして、このシァクティ女神をジーヴァとともにサハスラーラ蓮華の上に立たせるべし。
ハタヨーガプラディーピカーには入っていなかったムドラーです。
現代のクンダリニーヨーガでも重要な行法として登場します。名前はシャンムキー・ムドラーと呼ぶ場合もあり、ヨーニ・ムドラーという同じ名前で別の形のムドラー(両手の親指と人差指でひし形を作るような、手のムドラー)を指す場合もあります。
クンダリニーヨーガでは肉体を意図的に死んだ状態にすることによって超感覚を引き出すというような意図があり、そのために肉体の感覚を引っ込める(感覚制御:プラティヤーハーラ)必要があったので、目や耳などを全てふさぐことによってそれを行うという意味があります。
ヴァジローニー・ムドラー
3.45 両方のテノヒラを床につき、両脚をそろえて上にあげる。頭は宙に浮かす。これはシァクティの覚醒と長生の因である。これをムニ(聖者)たちはヴァジローニー(金剛)とよんでいる。
ハタヨーガプラディーピカーではヴァジローリームドラーという名前で登場しましたが、その行法は物議を醸した性的ムドラーであり、ゲーランダサンヒターで示されているこのムドラーとは全く異なるものでした。そのバリエーションとして示されていたサハジョーリームドラー、アマローリームドラーはゲーランダサンヒターには登場しません。
参考:ハタヨーガプラディーピカー概説 3.83-3.102 〜性的ヨーガのムドラー、ヴァジローリー、サハジョーリー、アマローリー〜
ゲーランダサンヒターで示されている方法は、はっきりとはわからない表現になっていますが、向井田氏は長座(ダンダーサナ)から床に両手を置いておしりと脚を浮かせる形を示しています。この形はサッチャナンダ氏はブラフマチャリヤーサナという名前で示しています。
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