ヨガには様々なポーズがあり、それらをサンスクリット語で「アーサナ(Asana)」と呼びます。
これらは、どのようにして生まれてきたのでしょう?
歴史を紐解いていっても、正確なことはよくわからない部分が多いのですが、現状知られている歴史をざっと知っておくと役に立つと思いますので、ざっと書いてみたいと思います。
古典ヨーガにおけるアーサナ
現在日本で行われているヨガの大部分は、欧米を経由して伝わったものなので、エクササイズ的な要素がメインになっています。
「体を気持ちよく動かして、深い呼吸でストレッチする」のがヨガだというイメージが強いですが、これはヨガのほんの一部分であり、またストレッチする目的のアーサナ以外にも、たーくさんのアーサナが行われています。
古典ヨーガの代表的な教典とされている(唯一の教典ではないが)「ヨーガ・スートラ(4〜5世紀頃)」の中には、ヨガで実践されるべき8支則がまとめられています。
8支則の3段階目に「アーサナ」があり、そこでは「アーサナは、快適で安定していること」と書かれていますが、具体的にどういうポーズをとれということは書かれていません。
そのころまでのヨガは、主に瞑想を行って、悟りに至るのが目的でした。
そのため、長く安定して坐っていられる坐法をとるべし、ということだけが伝えられていたようです。
それがどのような座り方であったのかは、様々な古い仏像や絵を見れば、蓮華座(結跏趺坐・パドマーサナ)が主に用いられていたと察することができます。
AsanaはAs(坐る)という動詞語根から作られた言葉のようなので、もともとは「坐法」という意味で用いられていたと思われますが、現在では様々なポーズのことも指しているため「体位」「姿勢」などとも訳されます。
サンスクリット語は1つの単語にたくさんの意味があり、文脈で判断されるため、とても解釈が難しい言語です(日本語にも近いものを感じます)。
ハタヨーガにおけるアーサナ
蓮華座を中心とした「坐法」以外のいろいろなポーズが生まれていったのは、「ハタヨーガ」と呼ばれるヨガが重要とされるようになっていった12〜13世紀以降と言われています。
ハタヨーガにおける重要な文献は、12〜13世紀頃のゴーラクシャ・シャタカ、16〜17世紀頃のハタ・ヨーガ・プラディピカー、ゲーランダ・サンヒターといったものがあります。
現在「ハタヨガ」という言葉は、体を動かすヨガ全般、あるいはポーズ1つ1つに時間をかけるヨガのスタイル、のように用いられていますが、本来はそれ以外にも浄化法や瞑想法などいろいろな要素を含んでいます。
ハタヨーガの大きな目的の一つは、体の中心を流れるスシュムナー・ナディーというエネルギーラインを浄化して、骨盤底あたりに眠っているクンダリニーというエネルギーを呼び覚まして頭頂まで持ち上げる(その過程に7つの「チャクラ」がある)、というものです。
筋肉を鍛えるとか体を柔らかくするというのは主な目的ではなく、エネルギー体をキレイにすることが重要とされていて、現代ヨガでよく行われているような戦士のポーズのようなポーズは伝えられていません(少なくとも文献上は)。
そのため、背骨を整えたり滞りをなくしたりする浄化法・呼吸法が重要とされ、アーサナ自体は蓮華座・達人座(シッダーサナ)以外はあまり重きを置かれていなかったようです。
シッダーサナは、かかとで骨盤底のムーラダーラチャクラを刺激するため、特にハタヨーガでは最重要アーサナとして扱われています。
アーサナ数の変遷
古典ヨーガのころは蓮華座を中心とした坐法が行われていました。
あぐら以外にも正座や割座など、おそらくいろいろな坐法が試されたのだと思います。蓮華座を最初にやってみようと思った人は一体誰なんでしょうね。
ハタ・ヨーガ・プラディピカーには「84のアーサナがシヴァ神から伝えられた」と書かれていて、その中で15のアーサナが紹介されています。さらにその中でも4つのアーサナ(シッダーサナ・パドマーサナ・バドラーサナ・シンハーサナ)が重要で、シッダーサナが最重要、とされています。
また、生物の種類(7〜8万?8400万?)だけアーサナがあるとする説などもあり、一時的にとてもたくさんのアーサナが生み出された時期があったのかもしれません。
そこからだんだんと絞り込まれて、現代ヨガのアーサナにまとまっていったようです。
現代ヨガで行われていて名前のついているポーズは、およそ200前後かと思います(流派によって名前のつけかたも異なりますが)。
現代ヨガにおけるアーサナ
現在インドや欧米や日本で広く行われているアーサナの多くを作り出した・あるいは広めたのはT.クリシュナマチャリヤ氏(1888-1989)と言われています。
クリシュナマチャリヤ氏の弟子に、アイアンガーヨガのアイアンガー氏や、アシュタンガヨガを広めたパタビ・ジョイス氏がいました。
3氏の書籍や写真・動画は現在でも多く残されていて、現代ヨガでも馴染みのあるアーサナを行っている姿を確認できます。
ヨガ自体は5000年の歴史があるとも言われますが、今行われているポーズの大半は100年程度の歴史しかないものなのかもしれません(文献が見つかっていないだけかもしれませんが)。
「伝統」にこだわらず、自分で判断する
真実はわかりませんが、「創られた伝統」というものはどんな世界にも見られます。
なので「伝統的なのかどうか」に執着する必要はないと思います。
「昔から行われているから絶対正しい」「インドの偉い師匠が言っているから正しい」と短絡的に判断してしまうのは危険かもしれません。
ただ、ある程度昔から行われていて、それが破棄されずに伝えられているということは、それなりにたくさんの人が試して、それなりに効果があったのだと思います。
そして、師匠たちは長い年月をかけて研究や実践を重ねた末に、その技をまとめて世界に伝えています。
なので我々日本人はいろいろなヨガの技に対して、必要以上に恐れたり敬ったり排他的になったりせず、ひとまず「試す価値がある」と捉えておくと良いと思います。
何事も鵜呑みにせず、そして頭ごなしに否定せず、自分で試して経験してから判断しましょう。
関連記事:
≫「ヨガなのか・正式(伝統的)なのか」にこだわる必要はある?
≫国ごとに異なる「一般的なヨガ」と「インドのハタヨガ」の比較 〜体と文化〜
≫日本人に適したヨガ 〜正しい筋肉・深部柔軟性・陰陽バランス・洞察力〜