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シヴァサンヒター概説【9】3.82-3.97 気の操作(ケーチャリームドラー・カーキームドラー)

シヴァサンヒター概説【9】3.82-3.97 気の操作(ケーチャリームドラー・カーキームドラー)

口は気の流れにとって重要な場所、舌やアゴの使い方で様々な変化が訪れる

現存するハタヨーガの三大教典のひとつ、シヴァサンヒターの概説です。

参考:シヴァサンヒターの概要|ハタヨーガ三大教典のひとつ

今回は第3章の、舌や歯など口まわりを使ったケーチャリームドラー・カーキームドラーに関する部分を読んでいきます。佐保田訳では「気の操作」という小見出しがついています。

以下引用部分は基本的に以下書籍の佐保田鶴治氏の訳を用い、必要に応じてヴァス氏・マリンソン氏の訳と比較しながら進めていきます。

ヨーガ根本教典 (続)/佐保田 鶴治 (著)

この記事の目次

気の操作によって業を滅する

ハタヨーガの目的

3.82節「今や煩悩を破壊するために気の操作について説かなければならない。これを修習することによって、この輪廻の世界において業の果報が必然に消え去る。」

改めて確認すると、ヨーガの目的は一貫して、輪廻からの解脱にあります。そのための道は様々であり、人それぞれにあったヨーガを選ぶことができます。

過去生に積み重ねた行為による業(カルマ)によって、人は生まれ変わって再生してしまいます。輪廻から脱して再生してこないようにするには、新たに業を積み重ねないようにし、過去に積み重ねた業の果報を滅する必要があります。

瞑想を主体としたヨーガを行ったり、結果や報酬に執着しないカルマヨーガを行ったり、自分の神を信愛して祈りを捧げるバクティヨーガを行ったり、様々なヨーガの道があります。道は異なれど、それぞれのやり方で業を滅して行き、解脱を目指していきます。

参考:ヨガの種類・流派一覧

たくさんのヨーガがある中で、ハタヨーガでは、アーサナ(坐法)、プラーナーヤーマ(呼吸法)、それらを組み合わせたムドラー(印)などの行法によって「気の操作」を行い、それによって業の果報を滅することを目指しています。

「気」の解釈

「気」の解釈の仕方は様々で、訳され方も様々です。微細な生命エネルギー、として説明されることもありますが、それ以外のエネルギーもたくさんあり、混同されることも多いようです。

たとえばこの節で佐保田氏は「気の操作」という言葉を使っていますが、マリンソン氏は「呼吸法の習得」と訳しています。「呼吸」ということだけ考えると「気」とは「空気」なのか?ということになりますが、ハタヨーガの行法としては、物質的な空気を吸ったり吐いたりしているだけではないというのは明らかです。

また、前節でもクンダリニープラーナを混同する可能性のある文章がありましたが、文脈によって注意深く解釈していく必要がありそうです。

いずれにしてもここから説かれていく行法は、単なる身体的な技ではなく、気を整える目的で行われることを意識すると良いかと思います。そのためには、呼吸するときのイメージも重要になります。

参考:気は意に従う

そのあたりについての細かいやり方は文字で表すのは難しく、密教的な教えなので、分からない場合は師匠に直接習って実践するべしということになるのでしょう。

口を使ったムドラー(ケーチャリームドラー・カーキームドラー)

ケーチャリームドラー

3.83節「聡明な行者は舌を上顎の根もとにあてがって、気のプラーナを飲むならばヨーガの完全な消滅のときが来るであろう(もはやヨーガ修行の必要が無くなる)。」

佐保田氏とヴァス氏はこの節の注釈で、「ヨーガ」ではなく「ローガ(病気)」を採用している訳本もあるとしています。

マリンソン訳3.82節「舌を口蓋の根元に固定しプラーナを飲む賢明なヨギは、病を完全に治す。」

マリンソン氏は「病気」のほうを採用しているようでした。

ハタヨーガの他の教典でも、この節で示されているように舌を使った重要なムドラーとして、ケーチャリームドラーが記されています。

ちなみにこの章では、これらのムドラーのやり方は示されていますが「ケーチャリームドラー」「カーキームドラー」という名前が原文に示されているわけではありません。他のハタヨーガの教典と比較すると、明らかにこれらはケーチャリームドラーとカーキームドラーと呼ばれるもののバリエーションと思われるため、ひとまずここではそれらの名前で呼びます。

ケーチャリームドラーは、舌を口の中の上側(口蓋)につけたり、さらに高度なやり方では舌を伸ばしていって喉の奥まで入れる行法です。歯の根元につけるのか、軟口蓋につけるのか、喉の奥に入れるのかなどのバリエーションがあるようです。

ハタヨーガプラディピカーやゲーランダサンヒターに出てくるケーチャリームドラーは、以下の記事で紹介しています。

参考:ハタヨーガプラディーピカー概説 3.32-3.54 〜ケーチャリームドラーのやり方と重要性〜

参考:ゲーランダサンヒター概説3.25-3.48 〜ムドラー解説2〜

カーキームドラー

カーキームドラーは「口をすぼめて空気を吸い込む」という行法です。ここでは吸い方についての指示のみ書かれています。ちなみに吐く時はどうするのかというと、本山博氏の密教ヨーガでは吐く時は鼻から吐くようにし、できるだけ長い呼吸をするようにという指示があります。

3.84節「聡明な行者にして、プラーナとアパーナの機能を心得た上で、口をからす(烏)の口ばしのように突き出して、冷たい空気を飲むならば、彼は解脱の器(有資格者)となる。」

このあたりの細かい解釈は訳者によって微妙に異なっていて、ひとつひとつ追究していくとややこしいことになりそうなので、今回はそこまで細かく読むことはやめておきます。

ここからケーチャリームドラーとカーキームドラーを組み合わせた行法と効果が雑多な順番で記されていきます。

雑多に並べられてはいますが十数節を費やして、ケーチャリームドラーとカーキームドラーの重要性を説明しており、「死や病気の克服」という効果を示しています。

ゲーランダサンヒターでも、カーキームドラーは「病気をなくす」という効果を説明しています。

参考:ゲーランダサンヒター概説3.82-3.100 〜ムドラー解説5〜

ムドラーの実践によって、どのような変化が訪れるか

各ムドラーの重要性

カーキームドラーの効果として、結核や熱病などをはじめとした「病気がなくなる」ということが数節にわたって説明されています。

またケーチャリームドラーの効果としては「死や老の克服」ということを、これも数節にわたって説明しています。

他のムドラーは後の章で説明されていますが、シヴァサンヒターの中ではこの二つが別格で挙げられているという印象です。しかし後の第4章のムドラーの羅列の中にもケーチャリームドラーが含まれていたり、他の教典からコピペしたのかなというような部分もあるため、そのあたりの不明瞭さは前述のようにマリンソン氏によって批判されています。

参考:シヴァサンヒター概説【0】ハタヨーガの教典として優れた点・問題点(マリンソン氏による序文)

ムドラーの効果

ケーチャリームドラーとカーキームドラーの各バリエーションの行法を続けていくことで、業の果報を滅して解脱に向かうことができる、というように効果が説明されています。

一ヶ月で死を克服する、六ヶ月ですべての疾病を無くす、一年で微細身などの超能力を得る、などの効果の説明も含まれていますが、このあたりはやり方と効果が雑多に並んでいて、正確に読み取るのはなかなか難しそうです。

3.93節「もしも行者が半秒間でも舌を引き上げておくことができるならば、瞬時に病と死と老とから解放される。」

この節は、ほぼ同じ句が別のハタヨーガの教典でも見られます。舌を喉の奥へ入れるのを目指すために、舌の下の筋を少しずつ切っていくという指示がある教典もありましたが、ここではその指示は無いようです。

ケーチャリームドラーが重要であることは各教典である程度共通していますが、シヴァサンヒターではカーキームドラーにもかなり重きをおいているのが、少し他の教典と異なるところのようです。

3.97節「かかる行業によって、行者は再生することなく、神々と倶に楽しむことができ、功罪によって染められない。」

佐保田氏はこの節を最後として一区切りし、そのあとに「体位法」の内容に入っていきます。

神々とともに楽しむことができるということは、まだ個別意識もある状態かと思いますので、全てが一つのブラフマンに還ったわけではなさそうですし、現生解脱(ジーヴァンムクタ)に至ったということになるのかもしれません。などなど、細かく読んでいく価値があるかもしれない部分はたくさんありますが、ひとまず先へ進んでいくことにしましょう。

この後は3章の最後、4種の坐法の説明があります。

次記事:(執筆中)

前記事:シヴァサンヒター概説【8】3.48-3.81 ヨーガ修行の4段階(アーランバ・ガタ・パリチャヤ・ニシュパティ)

参考文献

ヨーガ根本教典 (続)/佐保田 鶴治 (著)

The Shiva Samhita: A Critical Edition and an English Translation (English Edition)/James Mallinson(著)

男性ヨガインストラクター 高橋陽介の写真

by 高橋陽介

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