今回は腹横筋と腸腰筋をうまく使えるようになるためのヒントを紹介します。
アームバランスポーズや前屈ポーズ、あるいはナヴァーサナのような体幹を強く使うポーズがうまくできない人に参考にしていただければ良いかと思います。
この記事の目次
「ヨガ歴」を有意義にするために、筋肉への気づきを磨く
ヨガを長年続けていても、なかなかうまく使えるようにならない筋肉が、人それぞれあるかと思います。
これらの筋肉はとても重要なのですが、日常生活でもあまり使わずに過ごせてしまうため、意識することは少ないのでしょう。
こういった重要なことを見逃したまま、それっぽくポーズをとっていると、「ヨガ歴」は重ねていってもなかなか上達しなかったり、手首や足などの末端部分の怪我や慢性的な痛みにつながってしまうこともあります。
これらの筋肉を使えるようになると、意識せずとも姿勢が整ったり、日常の動作が楽に美しくなったり、いままでできなかったアーサナが軽々とできるようになったりします。
なかなか日常で使わない筋肉はたくさんあるかもしれませんが、今回は腹横筋と腸腰筋について解説します。
腹横筋を含めて4層ある、腹筋の構造と役割
「腹筋」には下記の4層があり、それぞれ役割が異なります。
- 外腹斜筋
- 内腹斜筋
- 腹直筋
- 腹横筋
外側に、外腹斜筋・内腹斜筋という斜めについてる筋肉があり、これらは主に背骨をねじったり(回旋)、側屈したりするときに使われます。
いわゆる「6つに割れる」といわれる腹筋は腹直筋で、これは主に背骨を丸める(屈曲)するために使われます。
腹横筋は一番奥にあり、主に「腹圧を上げる」という役割があります。
他の筋肉に比べて、「腹圧を上げる」という少しわかりにくい役割ですが、具体的には「息を吐く」という動作や、「背骨を伸ばして強く支える」といった動作に関わります。
お腹が薄く・長く・強くなった状態が、腹横筋が使われている(縮んでいる)状態ということになります。
一般的な「ふっきん」と呼ばれるエクササイズは背中を丸めるものが多く、これは主に腹直筋を鍛えていることになります。
お腹が割れるので見た目重視の筋トレをしたい場合は腹直筋を鍛えることが多いかもしれませんが、腹直筋ばかり鍛えていても、背骨を丸める力が強くなってしまうので、逆に姿勢は悪くなってしまいます。
腹横筋は、姿勢を整える上でも重要ですし、ナヴァーサナのようなアーサナでしっかり脚をあげるために体幹をブレないように強く保つために必要な筋肉です。しかし、一番奥にあるし、役割も他の筋肉と比べてわかりにくいので、意識を通しにくいのでしょう。
腹横筋をうまく使えるようにするトレーニング
お腹が薄く・長く・強くなった状態、をつくりだすことで、腹横筋を使う練習になります。
そのための2つの練習法を紹介します。
ドローイン
椅子や床に座った状態でも、立った状態でも構いません。このエクササイズはいつでも行なえます。生理中や妊娠中の方は、やめておきましょう。無理するとクラクラするので、できる範囲で行います。
1)背骨は丸めないようにまっすぐ立てたまま、息をできるだけ吐ききります。
2)吐ききってから、さらにお腹を引っ込めて薄く長くするように、お腹全体に力を入れます。ただしなるべく背中は丸くならないようにします。その状態で10〜30秒ほどできる範囲で浅い呼吸をしながらキープします。
3)ゆっくりお腹の力を抜いてから、息をゆっくり深く吸います。3〜5セットほどやると良いでしょう。
プランクを長時間キープ
体を板のように保ち、お腹が落ちないように・腰を反らないようにして、できるだけ長時間保ちます。
肘を曲げた形(ドルフィンプランクと呼ぶこともあります)で行っても良いでしょう。どちらの形でも、重要なのはお腹が落ちないように保つことです。
腰が反ってお尻が上がってしまっていることも多いので、始める前に一度、鏡やスマホのタイマー写真などで自分のポーズを確認しておくと良いかと思います。
30秒くらいのキープから始めて、2分ほどキープできるようになるのを目指しましょう。
腸腰筋の構造と役割
「腸腰筋」はひとつの筋肉ではなく、腸骨筋・大腰筋・小腰筋という複数の筋肉のあつまりを表しています。
細かく分けるとそれぞれの働きは異なるのですが、「股関節を曲げる(屈曲)」ときに、これらの筋肉は協力して働きます。
「膝を曲げる」とかはわかりやすいですが、「股関節を曲げる」という動き、意外と意識しないことが多いかもしれません。
股関節は少し体の奥のほうにあったり、膝や肘のようにちょうつがい状の関節ではないので、意識しにくいのかと思います。
意識はしにくいですが、じつは股関節は肩関節と同じように球状の関節で、肩ほどではないですが回転したり縦横に開いたり、かなり自由に動かすことができるものです。
腸骨筋と大腰筋を分けて考える(上級者向け)
腸腰筋は、腸骨筋・大腰筋・小腰筋を合わせた総称です。
腸骨筋は、骨盤の前側と大腿骨をつないでいて、わかりやすく股関節屈曲に関わっています。
大腰筋は、大腿骨の内側から腰椎にまでつながっているため、背骨をまっすぐにするという腹横筋と協同する働きも兼ねています。つまり腹横筋と協働させたときに、大腰筋は最大限に股関節屈曲に貢献することができるので、たとえば前屈やナヴァーサナのような大腰筋を使う動作をするときはお腹を長く・薄く・強く保っておくことが重要になります。
大腰筋は体の真ん中あたりにあるため、把握しにくい筋肉でもあります。使い方を直感的にわかるようにするために、どの骨とどの骨につながっているのかをイメージで理解しておくのも良いでしょう。以下の記事も参考にしてみてください。
さらに、腸骨筋と大腰筋が別々に働く場合というのも存在します。この話は後屈のコツに関する記事で解説しています。
腸腰筋をうまく使えるようにするトレーニング
腸腰筋がうまく使えない主な原因は、以下のような点があります。
- 体幹が強く保てていないと使えない
- 他の筋肉を使ってごまかせる
たとえば、立った状態で腿上げの動作をやってみると、背骨が丸くなってしまう人も多いと思います。このときはほとんど腸腰筋が使われず、背骨を丸める腹直筋が使われています。
腸腰筋をしっかり使うためには、背骨をまっすぐに保っておく強さも必要になります。
しかし背骨がまっすぐになっていても、太もも前の筋肉(大腿四頭筋)でごまかしている場合があります。これは見た目でわかりにくいですが、ためしに腿上げの状態から膝を伸ばそうとしてみましょう。太ももでごまかしている場合はほとんど膝が伸ばせないか腿が一気に下がってしまうので、そこで判断することができます。
姿勢を整えて、余計な筋肉に力が入りすぎてしまっていないかどうかを確かめながら練習することで、目的の腸腰筋に少しずつ意識が通って使えるようになっていきます。
トータップ
姿勢を整えるという点では、ピラティスのエクササイズの多くは仰向けで行うため、床を使って背骨を正しい配置に保ったまま目的の動きを行うことに集中できます。
腸腰筋と腹横筋を使うエクササイズとしては、まずトータップがオススメです。簡単にやり方を説明しますが、より詳しいやり方やポイントは解説記事のほうを参考にしてみてください。
1)仰向けに寝て、骨盤は真上を向いているようにします。骨盤の上にビー玉をのせても転がらないようにするイメージです。このとき、腰の下には手のひらが一枚ギリギリ通り抜けないくらいのスペースができます。首や肩には力が入らないように(仰向けのニュートラルポジション)。
2)腰の下のスペースはつぶさないように、膝は90°に曲げて、太ももが垂直になるように両脚を持ち上げます(テーブルポジション)。
3)膝は90°に曲げたまま、片脚ずつ、吐きながらゆっくり床におろしていき、足先で軽く床にタッチしたら、吸いながら持ち上げてテーブルポジションへもどります。腰の下のスペースはそのままに、つぶさないように・広くなりすぎないように。左右行って1セット。5セットほど行います。
トータップに慣れてきたら、シングルレッグストレッチなどの大きな動きを伴うエクササイズも挑戦していくと良いでしょう。
壁を背にして、ゆっくりももあげ
背中からお尻まで壁にくっつけた状態で、腿上げをします。このとき、太もも前側の筋肉(大腿四頭筋)にはなるべく力を入れないようにやってみるとより効果があります。
お腹をしっかり引き締めて、背中〜お尻が壁にしっかりついている状態をキープすることが大切です。
筋トレというよりも意識を通す目的なので、あまり速くたくさんやる必要はありません。少ない回数でもゆっくり正確に行ってみましょう。
たとえば「上げる動作をするのに5秒・上げた状態で10秒キープ・下げる動作をするのに5秒」といった感じでゆっくりやってみるのも良いです。意外と難しいです。
左右で1セット、5セットほどから始めてみると良いでしょう。
腹横筋と腸腰筋が使えているかチェックするためのアーサナ(ヨガポーズ)
これらの筋肉が使えているかどうかチェックするためには、まず長座(ダンダーサナ)をしてみると良いでしょう。
背中がまっすぐになっているかどうか、股関節がシャープに90°に曲がっているかどうか、といったところがポイントになります。
簡単な姿勢のようですが、現代社会ではコレができないという人がとても多いです。
背中をまっすぐにするために、壁を背にして、仙骨と肋骨全体と後頭部がまっすぐ垂直にならんでいるかどうか確かめながら練習するのも良いでしょう。
背中をまっすぐにすることが重要なので、まずは膝を曲げて練習しても構いません。背中がまっすぐになったら、仙骨が壁から離れないように膝を伸ばしていくことを目指しましょう。
しかしダンダーサナまでであれば、柔軟性があればなんとかなります。この形のまま脚を持ち上げて45°回転するとナヴァーサナになるわけですが、こうなると筋力も必要になってきます。
ナヴァーサナはとにかく苦手!という人も多いようなので、他のアーサナを使うことも考えてみましょう。
ナヴァーサナがうまくできない場合、手で足・脚を支えるのも良いですが、その際に体幹をしっかりまっすぐ保つことをまず目指しましょう。
そのための練習ポーズとしては、ウバャパーダングシュターサナなども良いです。
さらに深く前屈・体幹を強く長く保つことを目指すために、ウルドゥヴァムカパスチモッターナーサナも良い練習になります。
今回紹介した練習法・ポーズはどれも、体幹の姿勢が大切なので、自分の姿を鏡や動画などでチェックしながら行ってみるとより良いと思います。
ある程度感覚がつかめたら、鏡や動画なしでもできるようにしていきましょう。