この記事では、長座(ちょうざ)ができないときのコツ・練習法について書いておきます。
長座とは
長座とは、ざっくり言うと「骨盤・背骨を立てて」「脚をそろえて膝を伸ばして座る」という姿勢です。
ヨガでは「ダンダーサナ(杖のポーズ)」と呼ばれ、坐位の前屈ポーズに入っていく前の基本ポーズとなっています。
ちなみに小学生の体力測定などでは「長座体前屈」があり、これは長座の状態から上半身を前屈していって柔軟性を測定するものですね。
長座の基本的なやり方・順番
- まず膝は曲がっていても良いので、背骨を立てて座る。
- それから、カカトを押し出すようにして膝を伸ばしていく。
という順番で行うのが良いかと思います。
先に膝を伸ばそうとすると、骨盤が後ろに倒れて背中が丸まってしまい、これでは重力を味方にしにくいため、膝は曲がっていても良いので背骨は立った状態にすることを優先して、曲がった膝の下の空間をなくすように伸ばしていく方向性のほうが、重力を味方にできるので進めやすいです。
練習法については後述します。
長座がうまくできているかどうかの基準
たとえば背中を後ろに傾けて、手を床について支えていれば、「脚を伸ばして座る」ことはそれほど難しくないかもしれません。
ただその形だと、「長座」っぽくはないですね。
「長座」ができているかどうかは、以下の2点が重要かと思います。
- 背骨が後ろに倒れたり丸くなったりしておらず、腰椎と頚椎が前弯した正しい形(ダブルS)で垂直に立っていること。
- 膝がそろってまっすぐ伸びていること。
特に「腰椎と頚椎の前弯」が、現代人にとって非常に難しくなっています。多くの人が、腰椎は後ろへ丸くなり、頚椎はまっすぐになって前方へ伸びている「ストレートネック」になってしまっているためです。椅子に座る時間が長く、パソコンやスマホを見るために前方へ目と頭が移動していくことが主な原因です。
これらの対策と練習法について、以下にまとめていきます。
長座ができない原因とコツ・練習法
筋肉の観点から長座ができない主な原因を考えてみると、比較的よく言われているものとしては、以下のような感じかと思います。
- 太もも裏〜お尻(ハムストリングスなど)が硬い
- 股関節の前側にある筋肉(腸腰筋)が使えていない
- 太もも前(大腿四頭筋)が使えていない
しかしこれらを意識して練習しているつもりでも、なかなか長座ができないという人も多いようです。
そこで、以下のような原因も考えてみましょう。
- ★お腹が硬い
- 首の後ろが硬い・ストレートネック&猫背になっている
- 骨盤周りへの意識が薄い
それぞれについて、対策となるコツと練習法を簡単にまとめていきます。特に今回は、扱われることの比較的少ない「お腹が硬い」について詳しく考えてみます。
太もも裏〜お尻(ハムストリングスなど)が硬い
骨盤が後ろへ倒れてしまって腰が丸くなってしまうことと、膝を伸ばせないことは、どちらもハムストリングスが硬いことが原因です。
ハムストリングスを伸ばすためには前屈を練習すると良いですが、長座で骨盤を立たせることを目指すには、特に坐骨に近い部分を伸ばすように意識して前屈を練習すると良いでしょう。
そのためにはまず膝は曲げても良いので、お腹を太ももに近づけるように前屈します。背骨を丸めてしまうと、あまり効果が出ないことが多いです。
柔軟性に合わせて、以下のようにベルトやタオルを使って太もも裏・ふくらはぎを伸ばす練習をしたり、
重力を使って深めやすい、アルダハヌマーンアーサナなども効果的です。
また、ハムストリングスは周りの筋肉の影響を受けやすいので、お尻周りの大殿筋や中殿筋や、太ももの内側・外側などもマッサージしておくと良いでしょう。外側への意識が強すぎるためか、中殿筋が固まっている人もとても多いので、お尻の外側を拳やテニスボールなどでほぐしておくと前屈などが深まることがあります。
股関節の前側にある筋肉(腸腰筋)が使えていない
股関節を90°に曲げるために最も重要な筋肉は腸腰筋です。
腸腰筋をうまく使えるようにするためには、以前紹介した以下のようなエクササイズや、
腸腰筋・腹筋・内転筋・外転筋・大腿四頭筋などが一度に強化できるエクササイズ
仰向けで背骨の形を保ったまま、あごを引き、腰椎の後ろには手のひらが1枚入る隙間をキープしたまま、腰を丸めないように両脚を持ち上げる、レッグレイズなども有効です。
あるいは壁を背にして、仙骨(骨盤の後ろ側)・胸椎(胸の背骨)の真ん中あたり・後頭部が壁についているようにし、腰椎の後ろには手のひらが1枚入るくらいの隙間をキープしたまま、膝を伸ばしていく練習もよく行います。仙骨が簡単に壁から離れてしまうことが多いので、いったん前屈するようにして仙骨をまずしっかり壁につけておくのが重要です。
腸腰筋が固まっていてうまく使えないこともあるので、ストレッチのためにアンジャネーヤーサナなどを合わせて行うと良いでしょう。
大腰筋は体の奥の方にあり、なかなか意識することが難しいので、以下の記事なども参考にしてみてください。
太もも前(大腿四頭筋)が使えていない
膝をしっかりのばすためには、太もも前の大腿四頭筋が重要です。
この筋肉はとても固まっている人が多いので、うまく使えるようにするためには、筋トレをするよりもまずストレッチしたりマッサージしたりして緩めておくのが良いかと思います。
スプタヴィラーサナ(仰向けの割座)などでストレッチしたり、太もも内側の膝近くにある血海のツボなどを中心にマッサージしておくと良いでしょう。血海がゆるむと、下半身の血行が良くなります。
大腿四頭筋を強化するためには、先ほどの腸腰筋とまとめて強化できるエクササイズや、スクワットや椅子のポーズなどを練習すると良いでしょう。
腸腰筋・腹筋・内転筋・外転筋・大腿四頭筋などが一度に強化できるエクササイズ
★お腹が硬い
なぜ長座を難しいと感じる現代人が多いのか考えてみると、心理的ストレスなど様々な原因が関わっている「お腹が硬い」というのが重要なポイントのように思えます。
前屈などを練習してハムストリングスを伸ばそうとしてもなかなか長座がうまくならない場合、お腹が固まっていないかどうかを観察してみるとヒントが見つかるかもしれません。
骨盤が後ろに倒れてしまって背中が丸まっているということは、お腹に常に力が入っている状態ということになります。
お腹が固まる原因は、以下のように様々なものがあります。
- 猫背、姿勢の崩れ
- 心理的ストレス・胃の異常
- ストレスやトラウマに対して、体を丸めて固める防御反応
- 食べ過ぎ・不適切な食生活
- 生理痛、生殖器系・泌尿器系の異常
- 便秘など腸の異常
単純に筋肉の硬さという意味では、主に腹直筋が固まっているということになりますが、筋肉をほぐすだけでは解決しなさそうな問題も関わっている場合があるということです。気の流れを整える、鍼灸や手当てなどが効果的な場合もあるでしょう。心理的な原因がある場合は、呼吸法や瞑想などが鍵になる場合もあります。
ストレスやトラウマに対して、防御姿勢の状態で固まってしまっている人も非常に多いようで、ポリヴェーガル理論で扱われているように、これを改善するには心のモードを「安心」「ソーシャル」な状態に変えることも重要になります。それには呼吸や目の動きが鍵をにぎっているので、深いゆっくりした呼吸と、広い視野で眼球をしっかりいろいろな方向へ動かす、といった練習が効果的です。スマホなどをずっと見ていると、狭い視野で一方向しか見ないということが多いので、その逆を行ってバランスをとるというイメージです。
参考:からだのためのポリヴェーガル理論/スタンレー・ローゼンバーグ (著)|書籍紹介
長座や前屈が苦手な人も、「苦行」「痛い」といったイメージのモードで行っていると、身体は防御反応をして固まってしまうので、リラックスした呼吸で、目も凝らさずに緩めて行うほうが深めやすいです。
恥骨・骨盤まわりを温めたり優しくマッサージしたりするのも有効ですが、主に腹式呼吸(丹田呼吸)を練習すると、心もリラックスモードに向かい、お腹の硬さも改善していきます。
ヨガベーシックやシヴァナンダヨガのクラスで行っているカパラバティの呼吸法も、硬いお腹に刺激を与えるために有効です。
首の後ろが硬い・ストレートネック&猫背になっている
骨盤を立てて背骨をまっすぐ伸ばそうと思っても、ストレートネック&猫背で「頭が前にいる状態」のままでは、うまくいきません。
何かが前に出るためには、何かが後ろに行かなくてはなりません。
元は正しい位置にいた骨たちが、パソコンやスマホを見るために頭が前に行ってしまったために、背中が後ろに丸くなることで身体はうまくバランスをとってくれているわけです。
背中が後ろに丸くなっているのをなおすには、同時に頭が後ろに戻る必要があります。
以下のような猫背・ストレートネックを直すようなマッサージや練習をしていくと、長座にもつながっていきます。
- 首の後ろをマッサージ
- あごをひき、胸骨を持ち上げる(橋のポーズなど)
- 息を胸の上の方までしっかり吸い込む胸式呼吸
骨盤周りへの意識が薄い
骨盤は、背骨や股関節と接しているため周りの影響をとても受けやすく、「骨盤を立てる」というのが意外と難しいことが多いです。
まず骨盤や周りの骨がどんな構造になっているのかを、ビジュアルで理解しておくのが役に立つ場合があります。
特に、坐骨・上前腸骨棘(骨盤の左右の前側にある出っ張り)・恥骨などを触ってみるなどして、自分が長座をしようとしているときこれらがどんな方向を向いてるのかを注意深く観察してみると良いでしょう。
骨盤を立てるには、坐骨がまっすぐ立っている必要があります。背中が後ろに丸まっているとき、坐骨は後ろに倒れてしまっていることが多いです。
坐骨の向きを意識しながら、前屈の練習も行っていくと良いでしょう。
長座に関連するヨガポーズ
坐位の前屈ポーズ
アシュタンガヨガなどでは、長座(ダンダーサナ・杖のポーズ)から様々な前屈ポーズを行います。
長座の形で行う様々なポーズ
長座の形のように股関節を90°近く曲げるポーズは、様々な体位で行われます。
長座と同様の理由で、これらのポーズも苦手な人が多いかもしれませんが、長座を練習することによってこれらの上達につながりますし、逆も然りで、これらのポーズを正しく練習していくと長座もできるようになっていきます(私の場合はこちらのパターンで、ダウンドッグをしっかり練習しているうちに長座ができるようになっていました)。
これらの関連ヨガポーズを練習してみたり、日々の姿勢や心理状態などにも気を配って、注意深く長座を深めていってみてください。